企業向けルータの市場は、飽和状況に直面している。メーカー各社は、ルータ事業の維持・拡大に向けて、企業のリプレース需要を狙い、ターゲットの拡大をはじめとする新しい事業戦略を推進している。市場に新たな刺激を与える兆しもみえてきた。スマートフォンの法人利用の急増が、ルータ需要に高まりをもたらしそうだ。こうした状況下で、メーカー間の競争は激しさを増している。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場動向」を読む
リプレース需要に期待
企業向けルータ市場は、成熟期に入っている。リーマン・ショックを境に、2009年は販売金額ベースで前年比25.5%減少し、306億3200万円規模(IDC Japan調べ)に縮小した。その後、2010年後半から回復しつつあるものの、今後の大きな伸びは期待できない。パソコンやテレビなど、無線LAN対応機器の増加とともに開拓のポテンシャルが大きいコンシューマ向けルータ市場と異なり、法人向け市場は、価格の下落だけでなく、「ルータを導入していない企業はもう存在しない」(アライドテレシス プロダクトマーケティング部の西隆次課長)という状況に直面している。IDC Japanは、企業向けルータの09~14年の年間平均成長率をマイナス0.8%とみる。そんななかで、メーカー各社が期待を寄せるのは、企業でのリプレース需要だ。向こう2~3年で、ビデオ会議の普及やモバイル端末の法人利用の急増によって、ネットワーク上のトラフィックが大幅に増えることで、ルータを置き換えるニーズが高まっていくと予想される。
企業向けルータの市場動向(販売金額)
figure 2 「主要プレーヤー」を読む
メーカー間の競争、一層激しく
外資系や国内のメーカーがひしめくルータ市場だが、家庭向け、企業向け、通信事業者向けの各ターゲットユーザーによって、主要プレーヤーが変わってくる。企業向けルータ市場は、米国最大手ネットワーク機器メーカーのシスコシステムズや、米スリーコムと中国の華為技術(Huawei Technologies)の合弁会社であるH3Cテクノロジーズのほか、国内メーカーのアライドテレシスや日立電線ネットワークスが存在感を発揮している。価格が数万円クラスから始まるローエンドのセグメントでは文教や医療を得意業種とするアライドテレシスが強く、ローエンド~ミッドレンジではH3Cテクノロジーズが強い。一方、日立電線ネットワークスやシスコシステムズは、ミドルレンジ~ハイエンドの分野に注力しており、文教や医療のほか、金融など幅広い業種でビジネスを展開している。今後は、各社がルータ事業の維持・拡大に向けて、ターゲット市場を拡大したり、ルータ事業の新しい分野を開拓することから、メーカー間の競争が一層激しさを増していくだろう。
企業向けルータの主なメーカーと得意とする業種
figure 3 「商流」を読む
販売パートナーの提案型営業を支援
企業向けルータは、ほとんどの場合、ルータ単体としてではなく、スイッチやハブなどネットワーク構築に必要な機器とともに、ディストリビュータやネットワークインテグレータ(NIer)などを介して販売されている。大手ルータメーカーの製品に強いNIerは、ネットワンシステムズ、ネットマークス、三井情報の3社。取り扱い商品の約90%をシスコシステムズ製品が占めるネットマークスのように、単独1社のメーカーの製品展開に特化したインテグレータが存在する。流通経路は、メーカー⇒1次店(NIerなど)→エンドユーザーという流れが多いが、1次店によっては、地域販社などのリセラーを介して販売するケースもある。
企業向けルータ市場の競争が激しくなるなかで、メーカー各社は自社の立場を強めるべく、販売パートナーとの関係強化に取り組んでいる。シスコシステムズは、販売代理店の提案型営業を支援することを目指して、提案ができたことを基準としたインセンティブ(奨励金)制度を採用している。アライドテレシスは、地方市場での販売強化を狙い、地方の営業拠点の横展開を加速させている。今年中に地方拠点の数を増やし、地域販社とのより緊密な関係づくりに力を入れていくという。
企業向けルータの主な流通経路
figure 4 「戦略」を読む
ターゲット拡大や新規分野の開拓
メーカーや販売店各社は、飽和状況にある企業向けルータ市場の打開策を模索している。ルータの置き換え需要が見込める、メイン市場での事業展開をベースとしながら、ターゲットユーザーの拡大やルータ事業の新しい分野の開拓に力を注ぐ。
シスコシステムズは、価格を抑えた新製品の投入によってターゲットユーザーを中小企業まで拡大する戦略を推進すると同時に、機能を拡充させ、ネットワークやセキュリティ関連のサービスを提供する「サービス統合型ルータ」の展開を急いでいる。一方、インテグレータは、メーカーの製品にさらに付加価値を付けて、「ルータを総合的なソリューションとして提供する」(ネットマークス商品企画部第一企画室の藍隆幸室長)ことがカギを握るとみている。
スマートフォンをビジネスで活用する企業が急増していることも、企業向けルータ市場での新たなビジネスチャンスを生んでいる。現在、ルータメーカーで唯一自社製品がスマートフォンに対応しているというアライドテレシスは、キャリアのソフトバンクと提携し、スマートフォンとルータを同時に購入した企業を対象に、ルータのキャッシュバック・キャンペーンを行うなど、いち早く市場開拓に取り組んでいる。
今後の事業戦略