モバイル広告会社のディーツーコミュニケーションズ(D2C)は、NTTドコモのiモードサービス向け検索連動型広告配信システムを刷新した。モバイルの分野でも影響力のあるGoogleへの有力な対抗策である。開発期間が短く、難易度の高いプロジェクトの進行を支援したのは、戦略的ITコンサルティングを得意とするウルシステムズだ。ユーザーと開発ベンダーの間に立ち、そのギャップの橋渡しに全力を尽くした。
D2C
会社概要:NTTドコモや電通などの共同出資により、世界初のモバイル広告事業会社として2000年に設立された。今回のシステム事例の舞台となるモバイル検索連動広告市場は2009年に前年比3割超の増加で急成長している分野だ。
システム提供会社:ウルシステムズ
サービス名:戦略的ITコンサルティング ユーザー主導型開発支援サービス
広告主からエンドユーザーまでの広告配信の流れ
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ウルシステムズ 横山芳成部長代理 |
NTTドコモと電通などが出資するD2Cは、iモードサービス向け検索連動型広告配信システム「D2Cリスティング広告iMenuサーチ(β版)」を2010年10月に刷新した。iモードのポータル画面である「iMenu」の検索サービスに連動して広告を配信・表示するシステムで、広告会社D2Cの基幹業務を支えるシステムだ。
インターネットの世界では、「Googleアドワーズ」や「Yahoo!リスティング」など、検索内容との連動によって、ユーザーニーズに適した広告を自動的に配信・表示する技術の革新が進んでいる。モバイルの世界においても同様のことが起きており、今回、刷新したD2Cリスティング広告システムには、世界のネット大手と同等か、それ以上の性能を求めた。D2Cの和賀勝彦・ITアーキテクト担当上席エキスパートは、「モバイルに特化した“Google”をつくるくらい」と形容するほど、難易度の高いプロジェクトだ。NTTドコモが出資するD2Cとしては、主戦場であるiモード領域で、万が一にも同業他社に劣るわけにはいかない危機感が、その背景にある。
2009年に検索連動型広告配信システムの強化を決断。従来型のシステムは、古いカテゴリ検索の流れを受け継いだもので、広告表示に十分な精度が出せなくなっていた。大規模な開発案件になるのは明らかであり、D2Cだけでは開発ベンダーを十分にサポートできない。そこでD2Cが目をつけたのは、戦略的ITコンサルティングを得意とし、発注者主導による開発支援サービスを提供するウルシステムズだった。発注者であるユーザーの思い描くシステムを、開発ベンダーへ的確に伝え、プロジェクトの進行管理や出来上がったシステムの品質チェックを「ユーザーの立場で行う」(ウルシステムズの横山芳成・事業開発部長代理)というサービスだ。
開発ベンダーを2009年9月に選定し、要件定義を進めるものの、難航してしまう。発注してから稼働するまでの期間は約1年と、プロジェクトの規模の割には短い。モバイル市場は大きく変化しているので、どうしても開発期間を短期に抑えなければならないからだ。さらに、iPhoneのヒットに後を押されるかたちで、NTTドコモにおいてもAndroid OS搭載のスマートフォンの本格導入の検討が進んでいる時期でもあった。D2Cが開発しようとしているシステムでも、スマートフォンへの対応が求められる。だが、09年の段階で現在のスマートフォンの状況を的確に予想するのは不可能であり、「将来的な拡張性をもたせる」(D2Cの沢井拓・メディア・ストラテジー・グループ・エキスパート)というかたちで要件定義を行った。
ウルシステムズによるユーザーと開発ベンダー間の意思疎通支援も奏効し、新システムは2010年10月に稼働した。大方の予想どおり、スマートフォン全盛期に差し掛かろうとしている。現在、稼働中のD2Cリスティング広告システムは、iモードの今後の進化に合わせるかたちで、より一層、磨きをかけていく方針だ。(安藤章司)

D2Cの和賀勝彦上席エキスパート(右)と沢井拓エキスパート
3つのpoint
・モバイルに特化した“Google”をつくる大規模プロジェクト
・発展途上のモバイルに適した拡張性のあるシステム設計を重視
・開発ベンダーとの意思疎通支援の“橋渡し”サービスを活用