セールスフォース・ドットコム(SFDC、宇陀栄次社長)は、システムインテグレータ(SIer)や独立系ソフトウェアベンダー(ISV)向けのパートナービジネスを強化している。米本社から世界の各拠点に展開しているプログラムの拡充に加え、日本の商慣習に適合した日本法人独自の制度を提供。とくにISV向けでは、開発支援やツール類などを無償で提供するなど、クラウド展開する競合ベンダーとの違いを鮮明にしている。今年度(2012年1月期)は、これらを打ち出すことでパートナービジネスを前年度比で2倍近くに伸ばす計画だ。(取材・文/谷畑良胤)
クラウド開発・販売までが無償
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| ISVプログラムの強化策を説明する保科実・専務執行役員 |
SFDCが展開するパートナー施策は、コンサルティング会社、リセラー、ISV向けに三つのプログラムが走っている。このうち、今年度は重点プログラムの一つとして「ISVプログラム」を掲げた。同社は2009年12月、ISV向けにクラウド型の企業アプリケーション開発と提供を支援する「OEMパートナー・プログラム」を開始。マイクロソフトなど競合ベンダーが展開するようなライセンスを再販する方式とは異なり、同社のクラウド基盤「Force.com」上でアプリを開発・販売して、売上高の20%をSFDC側に支払うだけで簡単にクラウド型アプリを世に出せる仕組みだ。プログラムは日本の商慣習に応じた日本法人発のもので、現在、世界拠点にこの方式が“輸出”されている。
「Force.com」上でアプリを開発して自社製品が認定を受けたISVは、NECや日立ソリューションズ、富士通、ジラッファ、日本オプロなど現在までに約40社。これ以外に開発中が100社以上に達する。「OEMパートナー・プログラム」はCRM(顧客情報管理)を除くアプリ開発に必要な「Force.com」基盤の機能をすべて利用可能。ISVは「Force.com」を組み込んだクラウド・アプリのサービスを独自の販売チャネルやSFDCの「AppExchangeマーケットプレイス」を通じた販売を行うことができる。
パートナー関連事業の責任者である保科実・専務執行役員アライアンス事業本部長兼サービス統括本部長は「当社のOEMパートナー・プログラムは、開発支援、ツール類の利用、実際の開発からサービスで受注するまでに利用するSFDCの環境をすべて無償提供するという点が特徴となっている。ISVが市場に提供するサービス価格(定価)の20%を『Force.com』の基盤費用として支払うだけで、クラウド・サービスを展開できる」という。競合他社のプログラムであれば、開発関連の費用負担が重くのしかかるが、SFDCの場合はクラウド・サービス開発に二の足を踏むことがないというわけだ。
「Force.com」上で開発したISVのアプリは、「AppExchangeマーケットプレイス」を通じて世界へも販売することができる。すでに帳票ベンダーである日本オプロのアプリが米国向けにリリースされている。保科専務執行役員は、「今後は、ISVの製品数を増やすだけでなく、SIerがISVアプリの販売でコラボレーションする施策も打ち出す」としており、「Force.com」上で開発されたISVのアプリをSIerが販売する国内の「商流」も構築する計画だ。近く、「開発環境としてISVで使われる率の高いJavaやRubyの環境を適用することも検討している」(同)と、パッケージからクラウド・サービスへより簡単にマイグレーションしやすい利用環境にしていくことも検討中だ。
一次保守をリセラーに委託
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| 6月のパートナーイベントで、「パートナー協業案件での売上高を拡大する」と語った宇陀栄次社長 |
一方、中堅以上の企業に対するサービス販売を主にするリセラー向けプログラムでは、SFDCのポータルサイトなどに届くリード(見込み案件)をパートナーとシェアしたり、システム構築や運用に加え、「一次保守」をパートナー側に任せるなど、施策全体の拡充を図っている。
保科専務執行役員は、「『一次保守』を一任することで、リセラーの収益源が増える」という。また、リセラー向けで最も注力しており、競合他社と異なっている点は、「インプリメンテーション(実装)の検証にある」(同)。リセラーが構築したSFDCのシステムのROI(費用対効果)をリセラーと共同で検証する作業をしているのだ。リセラーにとってはミスの許されない制度だが、検証後に高評価を得れば、インセンティブ(成功報酬)の増額にもつながる。
SFDCのパートナービジネスは、09年度には前年度比65%増、10年度が同69%増、そして今年度は95%の成長を目指している。ISVが「Force.com」上で開発できるクラウド・サービスは、SFDCの主力であるCRMを除くアプリという制約はあるが、競合他社と比べると開発に係るコストが安価で、クラウド製品化や事業化までが短期間で済むとあって、同社との連携を希望するISVは増え続けている。SFDCの積極策を踏まえ、同じようにパブリッククラウドを展開するベンダーがどのように追随するかが注目点である。