セールスフォース・ドットコムは、国内のユーザー数が100万を超え、急伸を続けている。この10年でCRMアプリケーションメーカーからプラットフォームベンダーに大きな変貌を遂げた。1500万人規模の利用を想定した大規模システムを短期間で構築するなど、他社の追随を許さない。宇陀栄次社長のビジョンは、クラウドを国家競争力を生むビジネス創造の種にすること。2011年も事業の拡大に向け、強気の姿勢を崩さない。
クラウドの実力は随一
──米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOは、他社のクラウドサービスを引き合いに出して、本物のクラウド、偽物のクラウドという言い方をしています。クラウドについてどのような見解をおもちですか。
宇陀 スピード、低コスト、高品質、信頼性、高セキュリティなどを享受できるのがクラウドです。当社は、政府の大規模システムから料亭の小規模システムまで、マルチクライアントで全部同じシステムで提供できます。これを実現するのはすごく難しいことです。
クラウドには大きく三つの要素があると思います。テクノロジーとビジネスモデル、そしてシステム運用です。
ひと昔前のITテクノロジーをみると、IBMのようなメーカーが大型機を中心に高度な技術を開発していました。中小企業や個人には高価すぎて、そんな技術は使えなかったですよね。しかし、ブロードバンドの普及でコンシューマウェブの技術が急速に進みました。いちばんいい例がメールです。Gmailはキーワード検索したらすぐに結果が表示されるでしょう。かつ7GB超で、会社員なら新卒入社から定年退職まで使い切ることができないほどの容量があります。こうしたコンシューマウェブの技術を法人ビジネスに活用しようとしているのがクラウドです。いままでのサービスはクラウドとはいっていませんでしたが、法人向けに提供して初めてクラウドになると考えています。
二つ目の要素であるビジネスモデルについては、たった一人から月額で提供できるのが大きな特徴です。従来の製品を販売する営業担当者は、商談が決まった時がモチベーションのピークで、それ以降は下り坂です。ユーザーはそこからが勝負なのに…。メーカーとの間に大きなモチベーションギャップが生まれていました。
当社の場合は、いつまでもユーザーに使い続けてもらうことが肝心のビジネスです。2010年度に50億円くらいの大型商談がありましたが、年度末に近かったので、10年度はその商談の売り上げ計上額が2億円だけでした。常にユーザーと一緒に成長していくという考えでいます。
三つ目の要素、システム運用はものすごく重要です。当社のシステム運用や管理は、システム運用チームが24時間365日体制を敷いています。日本の場合、100万通りの設定ができるようにしないといけない。年に3回あるバージョンアップは、ユーザーにまったくワークロードをかけずに実施する必要があります。全世界では、毎日3億トランザクションがあり、平均レスポンスタイムは300msecです。これは、高いシステム運用ノウハウがある当社だからこそできることです。
──マイクロソフトはCRM「Dynamics CRM Online」の競合として、かなり御社を意識しています。パートナーへの奨励金(インセンティブ)引き上げや低価格設定などの対抗策を打ち出していますが…。
宇陀 マイクロソフトは素晴らしいITテクノロジーの会社ですが、ITサービスの会社ではありません。ようやく10年前の当社に追いついたという印象です。
当社はユーザーやパートナーにプラットフォームを提案しています。自社アプリケーションのシステム運用の経験がないマイクロソフトからプラットフォームといわれても、説得力がありませんよ。システム運用ができないから、パートナーにこれを任せています。つまり、ポジショニングが大きく違うわけです。
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