2010年度、x86サーバーは2年ぶりに前年度を上回る出荷台数を記録し、復活を果たした。東日本大震災の影響を受けたものの、サーバー統合のニーズは引き続き旺盛で、クラウドシステムの構築が進んだことが成長の要因だ。今年度もその勢いは続き、54万台に迫るまで回復する可能性がある。震災をものともせず、鮮やかに復活したハードの主役、x86サーバー業界の今を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「市場規模」を読む
2年ぶりのプラス成長、今年度は5.2%増
2010年度(10年4月~11年3月)の出荷台数は、前年度比1.3%増の51万965台となった。東日本大震災の影響で、下期だけを比べれば6.7%減少したが、上期の好調(前年同期比11.2%増)が支え、通年で2年ぶりのプラス成長に転じた。けん引役はサーバー統合。社内に点在する古いサーバーを集約するためのサーバーを新たに購入しているわけだ。このニーズは今年度も強く、台数を増加させる要因になる。今年度の出荷台数は、前年度比5.2%増の53万7700台まで伸びる見通しだ。昨年度の出荷台数を形状別でみると、ラック型が4.5ポイント上昇して53.4%を占めた。
一方、落ち込んだのはタワー型で、4.5ポイント下落して33.5%となった。注目点はブレード型の存在。全体の比率は13.1%で前年度とまったく同じ数値だ。x86サーバーメーカーは、「サーバー統合・集約に最適」を謳い文句に、ブレード型のモデル数を増やしてPRしたが、それとは裏腹にユーザー企業はブレードを選んでいない実状が浮かび上がった。
国内x86サーバーの出荷台数推移
figure 2 「メーカーシェア」を読む
トップはNECが堅持、上位の三つ巴状態
メーカーの勢力をみると、シェアで出荷台数と金額ともにトップだったのはNEC。前年度比で出荷台数は4.2%減、シェアも1.5ポイント落としたものの、No.1を堅持した。2位には前年度と同じく日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が入ったが、NECと同様に前年度を下回っている(前年度比2.0%減)。3位の富士通はプラス成長で前年度比3.4%増。シェアは前年度から0.4ポイント積み増し、20%に到達した。
調査したノークリサーチの伊嶋謙二社長は、富士通が着実にシェアを伸ばしている状況があり、NECと日本HPがトップ争いを演じていることから「三強時代に突入した」と分析している。4位のデルは、ここ数年下降気味で、昨年度も2.0%減に終わった。元気がいいのは、日本IBMと日立製作所だ。5位の日本IBMは、前年度比10.3%増と2ケタ成長を記録。6位の日立は最も伸び率が高く、15.2%増。ともにシェアは低いものの、市場の成長率を大幅に超える伸びを示した。
2010年度のメーカー別シェア
figure 3 「トレンド」を読む
DC設置用サーバーが圧倒的多数
サーバー(メインフレーム、UNIXなども含む)を設置場所別で示したのが右図である。(1)ITサービス事業者が所有するデータセンター(DC)内に設置、(2)ユーザー企業が所有するDC内に設置、(3)店舗やオフィススペースなど、DCやサーバールーム以外に設置──の3パターンでそれぞれカテゴライズしている。最も多いのはユーザー企業のDCで、全体の40.6%を占め、111万8913台ある。次いで、ITサービス事業者のDCで34.0%の93万6502台。DC以外は25.5%となった。DCに置かれるサーバーはラックとブレードが多く、DC以外に設置するサーバーはタワーが多い傾向がある。
DCの規模をみると、ITサービス事業者のDCとユーザー企業のDCで傾向が分かれる。ITサービス事業者の場合、設置面積500m2以上の大規模DCが69.9%を占め、大規模化が進んでいる。一方、ユーザー企業のDCでは、大規模DC、中規模DC(設置面積100~500m2)、小規模DC(同50~100m2)に分散する傾向がある。大規模が26.4%、中規模が18.4%、小規模が24.9%となる。ITサービス事業者向けにサーバーを販売する場合、その対象は大手に限られるが、ユーザー企業向けでは大企業から中堅・中小企業まで、幅広くDCを設ける傾向があるので、販売する対象に規模は関係ない。台数は少ないかもしれないが、購買層の幅が広がる。
国内サーバー台数の設置場所別構成比
figure 4 「ニーズ」を読む
省エネ対応、災害対策に関心
x86サーバーに限らないが、今後のIT需要を予測するうえで、避けては通れないのが3月11日に起きた東日本大震災の影響である。震災による経済全体の縮小を不安視し、IT投資を抑えるユーザー企業が増える一方で、災害対策、事業継続計画を実行するためのIT投資も活発になってきた。下の図は、IDC Japanが震災後の今年4~5月に1943社・団体の情報システム部門責任者を対象に行った調査結果で、震災の影響で高まった意識をたずねたものだ。「リスク管理の強化」「バックアップセンターの強化」「情報システムの省エネ化」が、企業・団体の規模を問わず、上位に入っている。これらのニーズをx86サーバーを活用したITソリューションに置き換えると、万が一の事態に備えた冗長構成のシステム、データのバックアップシステムなどになる。そして、消費電力を抑えたCPUや独自の冷却システムを搭載する機種も求められるわけだ。
x86サーバーの拡販には、ハードのスペックや機能ではなく、震災で意識が高まったために出てきた課題を解決するためのITソリューションを、どのようにアピールするかが重要になる。その一方で、各社とも力を注ぐ省エネ技術を前面に押し出し、ハードそのものの消費電力削減効果をわかりやすく提案することも、ユーザーの関心を引く要素になる。
東日本大震災の影響で高まった意識の上位10項目(複数回答)