人を介さずに、機器同士がインターネットを通じて情報を交換し合う「M2M(Machine to Machine)」。アジアの新興国では都市化が急速に進展しており、ICT(情報通信技術)を活用して都市インフラの改善を図る「スマートシティ」の普及が著しい。そのスマートシティの技術基盤としてM2Mの需要が拡大している。日本でも、効率的なエネルギー使用に関する認識が高まっているなかで、M2Mが本格的に普及しようとしている。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場推移」を読む
震災の影響で日本でも本格普及へ
調査会社のROA Holdingsによると、国内のM2M市場がここ数年で盛り上がりをみせている。金額ベースでの市場規模は、2005年には約1000億円だったのが、2010年までに約2兆円(予測値)へと急拡大している。M2Mの市場は、M2M型サービスのインフラ基盤となる(1)プラットフォーム、(2)アプリケーションサービス、(3)ネットワーク、(4)モバイル端末などM2M対応のデバイス──という四つの分野で構成される。なかでも、2008年からアプリケーションサービスが順調に伸びており、M2M市場全体に占める比率を高めている(ROA Holdings調べ)。日本のM2M市場は、最近は伸びが大きいものの、欧米や成長著しいアジアの先進国と比べると規模が限られているといわれてきた。だが、東日本大震災を境に、本格普及の兆しがみえてきている。日本では、このところエネルギー削減を目指した「スマートシティ」が注目を浴びており、スマートシティを実現する技術基盤として、M2Mの需要が拡大することが見込まれる。
日本のM2M市場の推移
figure 2 「プレーヤー」を読む
大手ベンダーの動きが活発、連携に積極的
M2M市場が活性化していることを受け、市場開拓に意欲を示す有力システムインテグレータ(SIer)やメーカー系ITベンダーが現れている。最大手SIerのNTTデータは、今年2月、NTTグループでスマートIT展開の方向性を定める「スマートビジネス推進室」を設立した。この推進室をベースとして、M2Mの管理・運用プラットフォームを展開していく。メーカー系では、NECがM2Mサービスプロバイダに向けたプラットフォームを開発し、無線ソリューションの専門展示会「ワイヤレスジャパン2011」でアピールするなど、本格参入の準備を急いでいる。M2M型サービスの分野でも、大手プレーヤーが動いている。日本ユニシスが、今年4月に電気自動車向けの充電インフラシステムサービス「smart oasis」の提供を開始したり、富士通が7月にM2M型のデータ処理・分析サービス「SPATIOWL」を投入。企業間の連携も活発だ。例えば、新日鉄ソリューションズがオムロンと日本オラクルと提携して、電力削減のソリューションを提供している。
大手ITベンダーのM2M関連の主な取り組み
figure 3 「有望株」を読む
スマート交通インフラが急速に拡大
スマートシティの普及にけん引され、M2M市場のなかで大きな拡大が見込める分野が、自動料金収受システムや車両感知センサ、電子案内掲示板などを含む「スマート交通インフラ」だ。今年から、日本ユニシスの充電インフラサービス「smart oasis」など、スマート交通関連のサービス事例が出てきており、エネルギー使用の効率化の一環として、普及が加速するとみられる。調査会社の富士キメラ総研は、2011年の国内スマート交通インフラ市場を217億円と見込み、2020年までに618億円に増加すると予測している。2020年の市場規模は、2010年(172億円)比で3.6倍の拡大となるので、今後、ITベンダーが交通関連のM2Mサービス/ソリューションに注力していくのは想像に難くない。また、都市化が急進し、政府が交通整理に向けた投資を重視するアジアの新興国など海外のスマート交通インフラ市場では、さらに成長が見込める。海外市場は2011年の590億円から2020年間までに3948億円に伸びると予測されている(富士キメラ総研調べ)。2010年比で8.9倍の拡大という勘定になる。これらの数字から推測できるように、交通インフラをはじめとしたM2M関連の製品は、日本国内にとどまらず、交通の効率化が経済成長に欠かせないアジア新興国を中心に、海外で展開することが事業拡大への近道となりそうだ。
スマート交通インフラ市場
figure 4 「展開先」を読む
日本のITベンダーは中国に注目
海外でM2M市場が活発化するなかで、どの国・地域においてM2M関連の事業展開がどれくらいのポテンシャルをもつかについて、調査会社の米Juniper Researchが、地域ごとのM2Mサービスによる売上構成の2016年予測を公開している。Juniper Researchによると、北米と西欧での売り上げが大半を占めており、続いて、東アジア・中国と中東欧における売り上げの比率が高くなる見込みだ。
海外市場として、日本の大手ITベンダーが注目しているのは、中国だ。中国政府はM2M技術の普及に力を入れており、江蘇省無錫市などM2Mの「重点指定都市」が増えつつある。中国は、国単位で、アメリカに並んで世界の巨大M2M市場になるとみられる。NTTデータは、中国をM2Mプラットフォームの主な海外市場と捉えており、中国の都市政府を相手にした案件数が徐々に増えている状況だという。インターネットサービスプロバイダ(ISP)向けのブロードバンドインフラを提供するフリービットは、M2Mを中心に、2012年度の中国での売上目標を60億~80億円としている。中国の現地企業との合弁会社を通じて、大手ブロードバンドサービスプロバイダのチャイナ・テレコム無錫支社と組み、M2Mのフレーム構築に取り組んでいる。
グローバル地域ごとのM2Mサービスによる売上構成(2016年の予測)