デル(郡信一郎社長)が行った組織再編と、それに伴うデル製品をユーザー企業に再販するパートナー企業(チャネル)の支援体制が明らかになった。組織再編については、間接販売を専門に推進する組織「グローバルコマーシャルチャネル統括本部(GCC)」を新設した。従来、各事業部門に点在していたパートナーの支援担当者をGCCに集約し、パートナーを一括支援する体制を整えた。現在、パートナーは国内に千数百社が存在するという。この膨大な数の再販事業者を、デルとの取引額などに応じたパートナー区分に当てはめる。そのうえで、それぞれの区分に適合したサポートを展開する。GCCの人員は総勢75人。デルがこの水準の規模でパートナー支援の専門組織をつくったのは初のケースだ。(木村剛士)
デルは2011年2月、本社を含めて、全世界の現地法人でいっせいに組織再編を行った。顧客の規模・タイプ別でまず大きく組織を分け、(1)大企業と公共機関向け事業部門、(2)コンシューマと中堅・中小企業(SMB=従業員500人未満)向け事業部門で区切った。そのうえで、この両事業部門を横串しでみるITサービス事業部門と、パートナー支援部門を新設した。それ以前のデルの組織は、(1)大企業(2)公共機関(3)コンシューマ(4)SMB──といった形で、顧客の規模・タイプで組織を区切っただけ。ITサービス事業部門やパートナー支援部門はそれぞれの事業部門内に点在していた。今後成長が見込めるサービス(ソリューション)事業と、間接販売を伸ばしていくという意志、戦略の現れだ。
「グローバルコマーシャルチャネル統括本部(GCC)」は、このパートナー支援部門を指す。GCCは顧客のタイプや規模を関係なく、ユーザー企業にデル製品を販売するITサービス事業者やSIer、ディストリビュータに対して、販売につなげるためのサポートを手がける。つまり、間接販売(チャネルビジネス)を促進するための専門部隊だ。今年2月以前に各事業部門に点在していたパートナー支援担当者を集めて組織した。人員は約75人。
GCCの宮崎博・チャネル営業本部本部長によれば、デル製品を何らかの形で再販する企業は千数百社にも及ぶという。今年5月、GCCではこの膨大な数のパートナーを、デルがつくった支援制度「パートナーダイレクトプログラム」で定めたパートナー区分への振り分けを開始した。パートナーダイレクトプログラムは、「Registered」「Preferred」「Premier」の3種類に分かれている。デル製品を取り扱う金額や技術レベルに応じて振り分け、デルがパートナーに提供する支援プランが各カテゴリで異なる。例えば、Premierは多額の取引が必要だが、その分、手厚い支援を受けられるわけだ。今年5月に内容を改訂し、支援内容のさらなる充実を図った。主な支援内容は図の通り。条件は複数あるが、例えばデルからの購入金額コミットメント(必達目標)でいえば、Registeredはゼロ、Preferredが年間2000万円以上(エンタープライズ製品)、Premierは5000万円以上(同)だ。
宮崎本部長は、「2月以前のデルは、支援担当者がそれぞれの事業部門に分散していて、統一したプランでの支援ができていなかった」と打ち明ける。GCCは、この課題を解決するための役割を担う。GCCでチャネル支援プログラムの立案・推進を担当する福角和薫・チャネルプログラム本部北アジア地域担当部長は、「パートナーとデルの直販営業担当者との商談バッティングを防止するための案件登録システムをバージョンアップするなど、(支援制度の内容は)かなり充実してきた」と自信を示している。
実は、デルは今回の組織再編の前、9社の有力SIerに限定して支援制度を試験的に提供。パートナーが求める内容に沿っているかどうかをテストし、改善していた。そして、今年5月から全パートナーに対して、一気に展開しているわけだ。
直販で急成長したデルは、07年秋に間接販売の強化を打ち出した。それからおよそ4年、水面下で間接販売網の構築を試行錯誤してきたが、今回の組織再編で新たなステップに入ったことになる。競合会社とってはすでに整備済みの内容がある。だが、デルのチャネルビジネス体制が今回の組織再編で強化されたことは間違いない。

パートナーダイレクトプログラムの主な特典
表層深層
三つに分かれているパートナー区分に、製品を再販する企業を振り分ける一方で、デルはもう一つの枠組みでパートナーを区分し始めている。それが「デルから直接製品を仕入れるパートナーか否か」である。
デルから直接製品を購入するパートナーと、ディストリビュータからデル製品を購入するパートナーを分けているのだ。デルと直接取引するパートナーは、当然ながらデル製品を多く販売する有力企業になる。本文で触れた、試験的にプログラムを活用していた9社やPremierに属する企業は、ほぼこの枠組みに入る。一方、ディストリビュータから製品を調達するのは、「Registered」と一部の「Preferred」となるだろう。
宮崎本部長によれば、「まだ断言はできないが…」と前置きしたうえで、「企業数でいえば、ディストリビュータから製品を調達するパートナーが、全パートナー数のおよそ70%を占めるとみている。ただ、取引金額でいえばその逆で、デルと直接取引するパートナーのほうが70%を占めることになるだろう」。
「BTO・低価格・直販」というデルモデルは、ユーザー企業には広く受け入れられたものの、日本の流通事業者には敬遠された。日本の商流にとって、デルは敵対する存在だったのだ。そのことをデルは承知しており、今回の07年の方針転換から時間をかけて間接販売網の構築を慎重に進めてきた。ディストリビュータに対する配慮も、水面下で進めているところである。