デル(ジム・メリット社長)が、中堅・中小企業(SMB)向けビジネスでハードウェア販売からの脱却を加速させている。ユーザー企業の業務やIT戦略立案・推進に関する課題を解決するための「ソリューション」を、自社製品を組み合わせて自ら企画し、それをパートナーを通じて「間接販売」する戦略を強力に推進し始めた。推進の中心を担う「SMBセールス本部」のスタッフを3倍に増強。ソリューションづくりとパートナーのトレーニングを水面下で強化している。「箱(ハード)の直販」で成長したデルのビジネスモデルが、変わりつつある。
パートナービジネスも重視
デルは、米本社が全世界で打ち出したパートナービジネス強化策に基づき、1年半ほど前に間接販売体制づくりを開始した。とくに従業員500人以下のSMB向け事業でパートナー戦略を強化しており、SMB向け事業を担当する部門「SMBセールス本部」内に、パートナーとの協業体制を構築する部隊「チャネルセールス本部」を組織。パートナーのリクルートを開始した。
米本社のパン・イーベン・アジアパシフィックSMB担当ディレクターによれば、「アジアパシフィック地域で約4000社のパートナーを組織し、そのうち日本では1000社のパートナーを確保できている」と豪語する。「年末には5000~6000社に増やす」と強気だ。
日本法人では、SMBセールス本部の人員を約3倍に増強し、パートナーのリクルートと既存パートナーへの支援を加速させる。パートナーのリクルート活動でとくに力を入れるのが地方市場の開拓で、「各地域で販売力がある地場SIerとの協業体制づくりに力を注ぐ」(鈴木謙彰・SMBセールス本部チャネルセールス本部長)姿勢を示している。
既存パートナーへの支援のなかでとくに力を入れ、パートナーへのメリットとして打ち出すのが、トレーニングだ。デル社員と同等のプログラムメニューを用意して、技術・営業の両面のスキル向上に力を注ぐ計画を示している。「競合メーカーはチャネル施策(パートナー支援)の投資を抑えている。デルはそこを突き、パートナーのスキル向上を中心に徹底支援する」(イーベンディレクター)。
パートナー戦略とともに強化するのが、ソリューションづくりだ。デルは競合のコンピュータメーカーに比べて、ソフトやサービス事業が弱い。結果的にハードの単体売りになりがちで、ハードメーカーから脱していない部分がある。それを打開するために、ハードとともにソフトやサービスを組み合わせたソリューションを自ら企画し、販売するスタイルに舵を切っている。
木口弘代・SMBマーケティング本部シニアマネージャーエンタープライズブランドは、「『デル=ソリューションプロバイダ』というイメージを定着させる」と明言。パートナーが売りやすいソリューションを自らが企画し、それをパートナーに提案する仕組みづくりに動き出している。
「箱の直販」から「ソリューションの間接販売」への転換は、競合メーカーに比べれば遅れを取っているが、積極策を打って追撃する構えだ。

SMBのチャネル戦略のキーマン。米デルのパン・イーベン・SMB担当ディレクター(左)と日本法人の鈴木謙彰・チャネルセールス本部長
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PCサーバーとストレージのシェアに注目
中堅・中小企業(SMB)のIT動向に強い調査会社のノークリサーチによると、昨年度(2009年4月~10年3月)、PCサーバーの販売台数シェアの上位3社は、1位NEC、2位日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、3位富士通となった。
デルは、シェア13.7%で4位。富士通に抜かれて、3位から4位に落ちた。一時は2位の日本HPにあと一歩のところまで迫る勢いでシェアを急伸させていたが、一転、苦戦を強いられているのが現実だ。
SMBのマーケットは、企業数が多いだけに台数シェアへのインパクトは大きい。今回デルが進めるソリューションと間接販売が成功すれば、サーバーの台数シェアも自然と上がるはず。デルのPCサーバーシェアは要注目だ。
もう一つ見逃せないポイントがある。それはストレージだ。鈴木謙彰・SMBセールス本部チャネルセールス本部長は、強化する製品分野として、サーバーと同じレベルでストレージを挙げている。PCサーバーは差異化要素が見出しにくくなり、パートナーにとってみれば、どのメーカーでもあまり変わりがなくなってきている。そうなると、サーバーでは、パートナーをリクルートしにくい。そこでストレージが武器になるわけだ。
ストレージは、サーバーに比べて台数規模は小さいものの、技術や機能に違いがあり、差異化できる製品だ。木口弘代・SMBマーケティング本部シニアマネージャーエンタープライズブランドは、「デルのiSCSIストレージ『EqualLogic』は非常に競争力があり、他社に比べて優位性が高い」と説明。自信を示している。
デルは「EqualLogic」を武器に、ソリューションメニューを作成し、それをパートナーに提案している。 PCサーバーとともに、ストレージの売れ行きも、デルの戦略の成果を測る重要なモノサシになるはずだ。(木村剛士)