「あなたの走りが1人の若者を救います!」──。うつ病やひきこもりなどに陥っている人たちの就労を支援する特定非営利活動法人(NPO)のFDA(Future Dream Achievement、渡邉幸義理事長=アイエスエフネット社長)は、10月2日、神奈川県川崎市にある古市場陸上競技場多摩川マラソンコースを舞台に「第2回NIPPON IT チャリティ駅伝」を開催する。チームの各ランナー1人当たり3000円の参加費がFDAに寄付されるほか、今回は半分の額を東日本大震災の被災地へ義援金として寄付する。昨年の第1回目以降、FDAは同駅伝の寄付金などを使い、16人のひきこもりの人を就労支援し、このうち3人が就労するという成果をあげている。(取材・文/谷畑良胤)
東日本大震災の支援も兼ねて
ITチャリティ駅伝は、昨年10月に次いで2回目の開催。トレーニングコンサルタントで、大会の実行委員長でもあるタレントのチャック・ウィルソン氏が、「駅伝に参加して就労支援を知ってもらいたい」と、参加費をFDAに募金する目的で企画した。前回は、IT業界の協力ベンダー39社や一般参加を含めて108チームが参加し、計540人が多摩川沿いを走った。

前回大会の駅伝スタートシーン。108チームが参加した(多摩川マラソンコースで)
2回目となる今大会は、大会会場でもある川崎市からの後援を得た。また、実行委員長のウィルソン氏に加えて、プロ野球・西武ライオンズの元選手である石毛宏典氏やパラリンピックのメダリストなどがスペシャルゲストとして参加する。駅伝事務局によれば、今回は前回の約3倍となる300チーム、約1500人が参加する予定という。会場では、被災地支援の一環として東北地域の野菜類などを販売したり、FDAに寄付金を提供した居酒屋の「和民」を展開するワタミがカレーうどんを露店で販売するほか、ミュージカルが鑑賞できる舞台も設営する。
FDAは、障がい者や在宅勤務者、ひきこもり、ニート、ホームレス、うつ病患者、シニア、ワーキングプアなどの人たちの就労を目的に、就職準備に必要な教育や求職活動の支援、就労後の支援・アフターケアを行うことで、雇用機会を増やす活動をしている。厚生労働省によれば、うつ病やひきこもりなどで悩みを抱えている人たちは全国に約270万人いるという。同省の研究によれば、15人に1人の割合で、一生に一度は罹る可能性があるそうだ。
IT業界から始まったうつ病増加
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FDA理事長 渡邉幸義 アイエスエフネット社長 |
就労者のうつ病者が増加したのは「IT業界から始まった」(渡邉理事長)といわれるほど、IT業界の就労困難者は他の業界に比べて高い比率となっている。とくに、ITエンジニアは他の職種以上にうつ病になりやすい要因を多く抱えているといわれている。慢性的な人員不足で長期間にわたって昼夜を問わずに激務を強いられたり、客先常駐などで周囲とのコミュニケーションが希薄になっているにもかかわらず相談相手がいないことや、技術革新が激しく、将来に漠然と不安を覚えるといったことがあるからだ。渡邉理事長は「うつ病は、決して他人事ではない。自分の会社でも起こりうる課題だし、こうした就労困難者に手を差し出す活動も行われていない」と、ケア不足がIT業界に目立つと懸念している。
FDAでは、IT業界に限らず、こうした人たちを受け入れ、IT講座やビジネスマナー講座、職業指導訓練など就職準備に必要な支援のほか、求職活動に必要な応募書類の作成指導やロールプレイングによる面接の受け方の指導、地域の就労支援センターやハローワークなどと連携したジョブコーチによる定期的なアフターケアを行っている。渡邉理事長が経営するアイエスエフネットは、障がい者雇用を促進し、実際に社員として受け入れているほか、社員が障がい者の教育を行う体制も整えている。FDAの活動は、同社での経験が生かされている。しかし、「寄付金が不足しており、教育スタッフ代を賄うことも難しい状況だ」(渡邉理事長)と、アイエスエフネットが教育担当者持ち出しで運営している状況が続いている。
それでもこの1年間では、16人のひきこもり者を受け入れて教育を続け、3人がIT業界などに就職した。このうち、12年以上も家にひきこもっていた40歳の男性が大手ITベンダーにウェブエンジニアとして採用されたという。渡邉理事長の構想は、「今回のような駅伝などイベントを多く開催し、来年5月頃までには、NPO法人だけのスタッフで運営できる体制を築きたい」というもの。FDAが自活する道に歩を進めたい、そのためにも、IT業界人などが駅伝大会に積極的に参加してもらうことを呼びかけている。