一般企業に比べて、IT業界にはうつ病やひきこもりなどに陥っている社員の割合が高いことを知っているだろうか。IT業界に限らず、こうした人たちの就労支援をする特定非営利活動法人(NPO)のFDA(Future Dream Achievement、渡邉幸義・理事長=アイエスエフネット社長)は、10月17日、神奈川県川崎市多摩川のマラソンコースを舞台に「第1回 NIPPON IT チャリティ駅伝」(BCN協賛)を開催する。実行委員長はトレーニングコンサルタントでタレントでもあるチャック・ウィルソン氏。この活動に賛同したIT業界の有志が有料(4000円/人)で参加する。参加費はFDAに寄付され、心に悩みを抱える人たちを社会復帰させる活動に使われる。
IT業界はひきこもりなどが多い FDAは、2010年2月に東京都に設立を登記したNPO法人。ニートやフリーター、ひきこもり、障がい者、ワーキングプアなど「社会的弱者」と呼ばれる人たちの就労環境を提供している。具体的な活動としては、社会経験の浅いフリーターに対し、社会定着を図るIT教育を行ったり、うつ病など長期休職者が再び働ける場所を確保して復職に導くことや障がい者雇用を促進するためITを利用した業務により、就労環境をつくることなどがある。
今回のチャリティ駅伝でIT業界をターゲットにした理由について、渡邉理事長は次のように語る。「国内企業のうつ病は『IT業界から始まった』といわれるほど、IT業界内には心に悩みを抱える人が多い」。その数は、一般企業の従業員に占めるうつ病者の割合が4.6%なのに対して、IT業界では6.4%に跳ね上がるほどだという。
納期、昼夜の作業…、悪条件重なる IT業界は慢性的な人員不足で、受託ソフトウェア開発などは昼夜を問わず作業し、常に納期に縛られるという劣悪な環境にある。このため、うつ病者などが増える傾向にあると考えられている。大会実行委員長でFDAの名誉顧問でもあるウィルソン氏は「FDAの活動は意義のあるもので、それを何とか広くIT業界に知ってもらいたい。そのために、チャリティスポーツの形式は、これまでにも実績をあげている。そのなかでも、人気と注目度の高い駅伝大会にし、IT業界の方々に参加してもらうことで、こうした問題に目を向けてもらいたい」と語る。
参加費は診察料金に充当 FDAによれば、知的・肉体的・精神的ハンディキャップをもつ障がい者は全国に700万人ほどいて、ニート・フリーターは1000万人に達するという。
自社のITベンダーで重度の障がい者やひきこもりなどの人たちの雇用を実践するアイエスエフネットの社長でもある渡邉理事長は「こうした社会的弱者は、座視できないほど多く、しかも増え続けている。一方で、大半の企業はここに目を向けていないばかりか、避けている。とくにその割合が多いIT業界のベンダー各社には、この事実を知ってもらい、具体的に雇用の場を確保・提供してほしい」と語る。今回の参加費(4000円/人)は、心の病に悩んでいる人が1回のカウンセリングを受ける診察料金に相当する。「しっかりケアをすれば働く環境をつくることができる。当社自身が実践し、実感している」(渡邉理事長)と、このチャリティ駅伝を何度も続け、IT業界全体に理事長の考えを浸透させたいと願っている。
今回のチャリティ駅伝は、1チーム5人で、100チームが参加する予定。走る距離は1チーム10kmで、1人当たり2kmを走る。男女混成チームでも参加できる。コースは川崎市の多摩川河川敷の平坦コースで「誰もが参加できる」(ウィルソン氏)という。
スタート付近の会場には、IT業界のベンダーや団体が用意した出店もあり、お祭り感覚で、駅伝を家族でも楽しめるように工夫している。「駅伝に参加するだけで、FDAなどの活動に協力できる。ぜひ参加したり、応援に来て、大会を盛り上げてほしい」(同)と、呼びかけている。(谷畑良胤)

チャリティ駅伝の大会実行委員長のチャック・ウィルソン氏(左)とFDAの渡邉幸義・理事長