東日本大震災を経験した日本企業は、自社が被災したかどうかを問わず、万一の事態が起きてもビジネスへの影響を最小限に食い止める術を真剣に考え始めた。社会インフラが壊滅した際の従業員の安否確認方法、在宅勤務体制の確立、企業内にあるデータの保存などだ。とくに、ユーザー企業は、重要なデータをどう保存・管理するかを重視し始めた。データの保存に関連するソリューションとユーザーの状況を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「データ量」を読む
2015年まで年率60%弱で増加
ユーザー企業が、データを保存する装置として用いるストレージ。その出荷容量は、どのように変化するのか。図は、国内の外付型と内蔵型のディスクストレージシステムの出荷容量を示したものだ。2010年の出荷容量は、35.4%増の809.6ペタバイト(PB)となった。データの内訳をみると、ファイルベースが全体の48.0%を占め、ブロックベースが52.0%。両者のうち、データが急激に増えているのはファイルベースのデータだ。調査会社のIDC Japanは、2011年にはファイルベースの容量がブロックベースを逆転し、全体の76.6%まで急増すると予測している。ファイルベースのデータとは画像や映像、テキストなど非構造化データを指す。今後は、各ファイルのデータが大規模化することが、ファイルベースのデータ量を増やす要因になるという。ディスクストレージシステム全体の出荷容量の2010~15年の年平均成長率は59.3%で、中期的にみてもデータ量は膨らんでいく。
ディスクストレージシステム市場の出荷容量推移(国内)
figure 2 「ストレージの動向」を読む
データは急増するが売り上げは横ばい
データの量は、2015年まで年率約60%で急増すると予測されている。では、それを格納するための主要装置である外付型のディスクストレージシステムは、どのように売り上げを伸ばすのか。データ容量の増加とともに急成長するかといえば、実はそうでもない。まず10年の実績をみると、前年比1.6%減の1687億6900万円。11年の予測もマイナス成長で、前年比6.6%減。2010~15年の年平均成長率は1.4%増と、かろうじてプラスというペースだ。データは急増するのに、ストレージの売り上げはほぼ横ばいが続く。なぜ、このようなギャップが生じるのか。一つの要因として、ストレージ価格の下落がある。台数は伸びても、1台あたりの販売金額が下がるので、ITベンダーが得られる収入も減少する。もう一つが、既存ストレージの有効活用だ。ユーザー企業が購入したストレージは、そのすべての容量を使い切っていないケースがある。仮想化技術を活用したこれらの使い切っていないストレージを有効活用して、データの容量増大に対応しようとする動きがある。
外付型ディスクストレージシステムの売上推移(国内)
figure 3 「バックアップ」を読む
大震災で意識に変化、安定成長へ
バックアップは、企業内の重要データを格納している情報システムが使えなくなった場合に備えて、大切なデータを多重化しておき、万一の事態が発生しても業務を止めないようにするために行う。東日本大震災後に最も注目されている分野だ。ミック経済研究所の調査によると、バックアップ・アーカイブパッケージソリューションの市場規模は、08年度から毎年着実に伸びてきた。10年度は10.6%増という2ケタ成長を遂げ、11年度は8.5%と同様に高い成長を遂げる。ミック経済研究所の樋口一則アナリストは、「10年度は仮想環境に対応した新製品や、データの重複排除機能など、新機能を搭載した新機種が発売されたことで市場が盛り上がった」と過去を分析。そのうえで「11年度は東日本大震災を受けて、ディザスタリカバリ(DR)対策の観点からバックアップソリューションを求めるユーザー企業が急増。中期的に安定した成長が見込める」と話している。また、大震災後には「中小企業からもニーズが強まっている」と樋口アナリストは説明している。9月下旬にファイルサーバーとデータベース「MySQL」専用の安価なバックアップソフトを発売したアール・アイ(RI)の小川敦代表取締役は、「中小企業にもファイルサーバーは必ずある。だが、そのバックアップを取っているユーザーはほとんどいない」として、新製品の拡販に意欲を示している。
バックアップ・アーカイブパッケージの市場規模
figure 4 「ニーズ」を読む
データ移行に課題
ユーザー企業は、ストレージに対してどのような印象をもっているか。ユーザー企業に対して、ストレージ投資で重視する項目についてたずねた質問で回答率(複数回答)が高かったのは、1位が「データ量増大への対応」(回答率57.4%)、2位が「バックアップの効率化」(43.6%)、3位が「セキュリティの強化」(30.4%)。その後に「バックアップの統合」(17.5%)、「災害対策」(15.3%)が続いた。調査を実施したIDC Japanの森山正秋・ストレージ/サーバー/HCP/PCs グループディレクターは、「今回の調査は東日本大震災の前に行ったが、データ保護や災害対策に関連する項目は上位に入っている。ユーザーはデータ保護や災害対策に関連した項目の優先順位を引き上げている」と話している。また、この調査では、ユーザー企業がデータの移行に関して課題を抱えていることがわかった。サーバーやストレージの増設・統合、組織変更やデータセンターの統合などで、データを移行する回数が急増しており、回答者の約30%が「管理者の作業時間」「移行期間」「予算」のすべてで計画をオーバーしていると答えた。保存対象のデータ量の増大で生まれる新たな管理負担。日増しにデータは増えているだけに、データをいかに効率よく安価に保存・管理する仕組みを構築するかが、ユーザー企業の喫緊の課題になっている。
2011年のストレージ投資の重点10項目