SMB(中堅・中小企業)市場で、バックアップの需要が急激に高まりつつある。社内のデータ容量が増大しているだけでなく、BCP(事業継続計画)の観点から必要性を認識し始めているためとの見方が強い。ストレージ関連のハードやソフト、サービスを提供しているITベンダーにとってのビジネスチャンスが訪れそうだ。果たしてSMB市場では、どのようなバックアップ関連の製品・サービスにニーズがあるのだろうか。
3割以上の企業が「改善したい」
「DtoDtoT」にニーズが高まる ユーザー企業の間で、バックアップ運用への投資を増やそうとする機運が高まっている。調査会社IDC Japanの調査によれば、企業規模の大小にかかわらず意識の高まりがみられるようだ。
IDC Japanが1158社を対象に実施したバックアップ運用に関する実態調査では、全体の36.3%から「バックアップシステム変更の意向がある」という回答が得られた。システム変更の理由については、「運用コストの削減・見直し」が最も多く、なかでもテープによるバックアップ「DtoT(ディスク・トゥー・テープ)」の追加としてディスクストレージシステムを組み込んだバックアップ運用「DtoDtoT(ディスク・トゥー・ディスク・トゥー・テープ)」に変更する意向のある企業が運用コストを意識しているようだ。バックアップの時間短縮や工数削減よりも、運用コスト削減を目的にディスクストレージシステムを導入する企業が多くなっているということだ。一方で、テープでの保存ニーズも依然として根強く残っているという。
また、この調査からは、自社のバックアップシステムのデータ保護レベルが不十分であることや、データセキュリティレベルが不十分であることを理由に、アウトソーシングサービスを利用する意向がある企業が多いということがわかった。データ保護やセキュリティレベルの向上に向け、自社でシステムを所有するよりも、サービスの利用で目的を達成することを選択肢に入れ始めているとIDC Japanではみている。
景気の悪化でコスト削減を意識する企業が増えてはいるが、システム運用という観点とBCPという観点から、バックアップのニーズが高まりつつあるのだ。
メーカー編
SMBにまですそ野広がる
製品・サービスが拡充
バックアップユーザーがSMBにまですそ野が広がるとみて、ストレージ機器メーカーやバックアップソフトメーカーは、製品機能の強化に力を注いでいる。また、テープメーカーは新規格の「LTO5」を前面に打ち出して、積極的に顧客開拓を進めている。新しいメディアをバックアップ用途として提案する動きも見逃せない。さらに、クラウドサービスの提供拡大を図るサービス事業者も出てきている。
製品機能で対応急ぐ
潜在需要を掘り起こす ITベンダーが提供するバックアップ関連の製品・サービスは、いくつかある。その一つがサーバーだ。サーバーとセットで提供、もしくはソフト搭載のサーバーを提供するというものである。ユーザー企業は、バックアップソフトの導入でサーバーに蓄積したデータをテープなどに保管している。二つ目はストレージ機器。データバックアップが可能なソフトを、ストレージ機器とセットで提供するやり方だ。テープとデータ、ともにバックアップソフトを単独で提供するというケースもある。このような複数の提供方法があることから、メーカー各社は製品機能を強化、なおかつ提案の切り口を見出すことで、事業拡大を図ろうと躍起になっている。とくに、SMB市場に需要が眠っていると判断し、この市場への対応を急いでいる。
EMCジャパンは、ストレージ関連の製品・サービスに特化していることを武器にして、主力とするハードに加え、データ重複除外ができるソフト「Avamar」を提供している。このソフトは、バックアップ・クライアント側で実行されることが特徴で、変更のあったブロック・データだけをバックアップするので、一般的なフル・バックアップと比べて、日常のネットワーク・リソース消費を500分の1まで削減することが可能となる。同社は「Avamar」を核にコスト削減をアピールすることで、新規顧客の開拓を図っている。
ソフトメーカーとしては、日本CAがバックアップソフト「ARCserve」シリーズでローエンド向け製品を今年5月末に発表し、6月以降に市場投入することを予定している。新製品は、低価格であることが最大の特徴という。バックアップ事業の責任者である江黒研太郎・ストレージ・ソリューション事業部長は、「SMBにARCserveを浸透させる」という方針を示している。
同社では、ほかにも遠隔地でのデータバックアップができる「ARCserve Replication」を提供しており、テープへのデータ移行が可能な「ARCserve Backup」との組み合わせで需要を掘り起こそうとしている。このような取り組みによって、バックアップ事業で2ケタ成長を狙う。
新メディアに期待
クラウドで新規顧客の開拓も バックアップ需要が広がるとみて、テープなどメディア関連のメーカーも製品強化に乗り出している。
イメーションは、第5世代規格である「LTO5」を採用したテープカートリッジ「LTO Ultrium 5カートリッジ」を今年4月21日に市場投入した。越中浩司・コマーシャル製品事業本部コマーシャル製品マーケティング部エキスパートは、「最近では、SMB市場でサーバーのバックアップ用途としてテープを導入したいという声を聞く。新規顧客としてSMBを増やせるのではないか」とみる。今年12月末までに、LTO5のテープで3万本の販売を目標に掲げている。
タンベルグデータは、エントリーバックアップとして「RDX(Removable Disk Exchange system)」が「簡単にバックアップできるので、SMBの需要を開拓できるのではないか」(松澤正芳代表取締役)と見込んでいる。RDXは、2.5型HDDのカートリッジ化でサーバーに着脱することができ、持ち運びできるローエンドのバックアップデバイスとして位置づけられる。USB接続でファイルをドラッグ&ドロップでバックアップできるほか、1mほどの高さから落としても壊れにくく、ほこりに強いきょう体、高速なバックアップなどが特徴になっている。また、価格がリーズナブルである点も売りだ。「テープ装置とHDD装置の“いいところ取り”がRDX」(松澤代表取締役)とアピールしている。
スカパーJSATでは、衛星通信と放送の事業を手がけていることを強みに、クラウドサービス「S*Plex3 クラウド・ストレージサービス」を提供。このサービスは、情報の暗号化や冗長化、断片化が可能な消失符号技術という情報セキュリティ対策を追求している点が特徴となる。「コスト面でBCPや災害対策を施せない企業が多い」(加藤健・衛星事業本部事業開発部マネージャー)ことから、クラウドサービス化に踏み切ったという経緯がある。
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