東日本大震災をきっかけに、仙台市内のITベンダーらで立ち上げた「ITで日本を元気に!」プロジェクト。被災地のITボランティアを主な活動として復興を支援している。震災発生から半年が経ったのを機に、全国のITベンダーや報道関係者ら35人で、津波被害を受けた宮城県の沿岸部を訪問した。9月11日、数台のクルマに分乗して仙台駅を出発し、目的地の南三陸町では、メーカー寄贈の中古パソコンやプリンタを仮設住宅に設置する作業を行った。その夜は、同町歌津地区の民宿に宿泊し、現地の人から震災直後の話を聞いた。記者は4月に一度訪れているが、当時に比べると瓦礫は除去され、平穏に見える。地元住民も前向きに将来像を描くが、本格的な復興に向けての課題もみえてきた。(取材・文/谷畑良胤)
パソコンの使い方を学びたい
「ITで日本を元気に!」プロジェクトのメンバーは、震災直後から毎週末に南三陸町を訪れ、発起人であり代表者であるトライポッドワークスの佐々木賢一社長をはじめとする仙台市内のITベンダー関係者が、被災者に対する地道な支援活動を続けてきた。そうした活動のなかでみえてきたITに関連する課題を解決するために、6月、「南三陸リニューアルプロジェクト」を立ち上げて、具体的なIT支援活動を開始した。佐々木社長は「仮設住宅の入居申込みが始まっていることを知らずに、締め切られていた被災者の例もある」として、被災者と支援者との間のコミュニケーション手段としてパソコンの導入が急務だと考え、IT機器・通信手段の確保を開始した。
今年4月、佐々木社長のクルマに乗せてもらって記者が南三陸町を訪れたときは、瓦礫を縫って現地に到着するのが精一杯だった。学校の避難所に日本酒と野菜ジュース数本を届けるのがやっとで、とても津波被害を受けた方に取材する雰囲気ではないほどの悲壮感が漂っていた。今回、9月に訪れたときは、陸地が陥没して水面すれすれになっているなどの変化はみられたが、瓦礫は何か所かに山積みされ、生活道路はほぼ開通していた。
訪問団の一行は、数グループに分かれて同町の歌津、志津川などを中心に1グループが2~3か所の仮設住宅を訪問し、クルマに積んで運んできたIT機器を設置した。その一つである田尻畑地区の13戸の仮設住宅では、「南三陸リニューアルプロジェクト」に賛同する人たちが一行を出迎え、参加したIT関係者の手で1台ずつ運び込んだ。プロジェクトの目的の一つは「仮設住宅、個人宅、行政とを結ぶ連絡網の確立」にある。この理念に基づいた活動だ。
微弱な電波、通信環境に課題
肝心なのは通信手段だ。パソコンを設置しても、通信できなければ意味がない。この支援活動に参加した大手通信会社の担当者が、通信カードを用いて無線LAN回線のテストを行う。しかし、住宅の窓際にパソコンを置けば、何とか通信が可能になるという程度の電波状態だ。佐々木社長は、「仮設住宅の壁が鉄板なので、電波が入りにくい」という。情報手段としてインターネットを使いたくとも、ネットワークが整備されていない状況に頭を抱えている。
この仮設住宅では、プロジェクトメンバーの一人で仙台市内に本社を構えるITベンダー、トレックの柴崎健一専務取締役が、住民を集めてパソコン利用の要望を聞いた。住民のなかで普段からパソコンに触っているのは、小学校に通う子どもだけ。お年寄りや年配の女性からは、「パソコンを使うと、いろんな情報が入ってくると思う」と期待して、パソコン設置を機に、使い方を学びたいという意見が出ていた。柴崎専務は、「通信回線や使い方の指導などの要望に応えたい」と、対策を打つことを約束した。
「地震発生! すぐ逃げる」が鉄則
一行はパソコンなどの設置を終えたあと、奇跡的に津波の被害が最小限ですみ、短期間に営業を再開できた海辺の民宿「ながしず荘」に宿泊した。ここでは、当時、町の社会福祉協議会で老人クラブを担当していた佐々木真さんが、町内の高野会館でカラオケ大会を開いていたときに津波に遭った話を披露した。このとき、佐々木さんのとっさの判断で、300人以上の参加者を施設の屋上に避難させ、命を救ったという経緯を聞いた。「大きな地震が起きたら、すぐ逃げるという鉄則を再認識した」と、振り返った。
佐々木さんの話に続いて、娘である小学生の佐々木夏蓮さんが、震災が起きて学校から避難所に逃げてものの、なかなか父親に会えなかった体験を作文にまとめて朗読した。「ご飯を食べながらも、お父さんや兄弟・家族が心配だった」と、当時の様子を語った。父親の真さんはいま、町役場を辞めて居酒屋を営んでいる。「なるべく家族と一緒にいられる環境に変えたかった。町の復興に向け、居酒屋でコミュニティもつくりたい」という。
南三陸リニューアルプロジェクトは今後、仮設住宅だけでなく、役場や漁協、まだ残る避難所、自治会、事業復興者、支援グループなどに対して、パソコンなど情報伝達環境を整備するほか、トレーニング教室などを開いていくことを計画している。

南三陸町の民宿で、津波が起きた当時の状況を聞いた(こちらを向いている側の中央がトライポッドワークスの佐々木賢一社長、右に座るのは講話をした地元の佐々木真さんと、左が真さんの娘、夏蓮さん)

仮設住宅にパソコンを設置し、ボランティア・メンバーが通信環境を調べた

仮設住宅の住民からパソコン利用について意見を聞いた。中心となって聞いたのはトレックの柴崎健一専務