経済産業省の中国経済産業局管内(岡山、広島、山口、島根、鳥取の5県)では、経産局を中心としてクラウドコンピューティングを利用した地元企業のIT利活用促進と、島根発のプログラミング言語「Ruby」を全5県に波及させてシステム開発の効率化と新ビジネスを創出する動きを本格的に開始した。新しいIT技術を使って地元中小企業の労働生産性や業務効率化を促進するとともに、企業向け開発を効率化することで製造業や半導体などの電子デバイス産業をはじめとする地場産業を底上げし、IT産業の活性化を目指す。(谷畑良胤)
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中国経済産業局 稲原宏昭 参事官 |
中国経済産業局は、10月末、委託事業として管内のITベンダーや支援機関、ユーザー企業で組織する「ちゅうごく地域クラウドビジネス推進ネットワーク(CCBNET.)」を創設した。経産局電子・情報産業担当の稲原宏昭参事官によれば、「中国地域のユーザー企業は、ITを利活用しようという認識が低い」。そのような状況を打破するために研究会を立ち上げ、地域ITベンダーと中小企業が連携し、クラウドを利用した企業の競争力強化や新ビジネスの創出についてモデルケースをつくって実証するなどの活動を展開する。
昨年度は「ちゅうごく地域クラウド研究会」を創設し、研究会を年3回開催。ITベンダーや企業が参加してクラウドビジネスの有効性や有用性を学ぶ機会を設け、クラウドを利活用する意識を醸成してきた。CCBNET.は、これを発展的に解消して新たに設立したものだ。ITベンダーがクラウドビジネスに参入する機会を支援したり、ユーザーがクラウドを利用して使い勝手を評価・検証する。
具体的には、地場のITベンダー2社程度を公募し、特定のユーザー企業に対してクラウドを提供した事例を紹介する。この事例をもとにITベンダーが提供できるクラウドのビジネスモデルを構築。ITベンダーとユーザー企業が参加する「ビジネスマッチング」の機会を設け、“中国モデル”と称するクラウドの利用を希望するユーザー企業を募り、サービスを提供する。 また、ITベンダーに対しては、クラウドサービスを提供するために必要な技術力や企画力の供給向上を図る研修会を開き、最終的には年度内(2012年3月末)にITベンダーとユーザー企業が集まる場で全体活動を報告する。稲原参事官は「地域のユーザー企業は、身近なITベンダーに提案してほしいと思っている。ITベンダー側がクラウドを使って安価で有効性の高いシステムを提供できる体制を整える」と構想を語る。
一方、昨年8月には「ちゅうごく地域Rubyビジネスフォーラム」を設立し、まつもとひろゆき氏が開発した「Ruby」を島根県以外の中国各県に波及させる事業を進めている。Rubyの技術をITベンダーに浸透させる一方で、今年度はRubyを活用した新ビジネスの創出やビジネスモデルの研究、事業化に向けたサポート体制などの具体化を開始した。
3月には情報処理推進機構(IPA)で、JIS規格「JIS X3017」に制定されたほか、12年中に国際標準化機構(ISO)で国際規格になる。稲原参事官は「Rubyは異なるシステム間で情報交換でき、外部システムとの相互接続性も高い。Rubyによるプログラムを規格に準じて作成することで、サーバー環境などを開発する際の仕様の拠り所になり、ユーザー企業は安心して投資できる」と評価する。Rubyを使いこなすことで、ITベンダーは地元の中・大型案件に参入しやすくなるほか、ユーザー企業の新ビジネス創出に必要なソリューションメニューを増やすことが可能になる。

「ちゅうごく地域Rubyビジネスフォーラム」の活動報告

CCBNET.の取り組み
表層深層
山陽と山陰を抱える中国地方は、経産局の領域のなかで、農家1件当たりの作付け面積が全国で最も小さい。半面、自動車メーカーのマツダや半導体のエルピーダメモリの工場など製造業が集積している。最近では、世界を代表する電子部品・デバイス産業が登場し、集積回路や半導体素子の製造業が成長基調にある。成長著しい電子デバイス関連の最先端企業がひしめくなか、これ以外の中堅・中小企業の市場成長率が懸念されている。
この状況を改善し、地場産業を活性化する目的で、IT利活用を進めようとしている。現状では、ユーザー企業の多くが、安価で手軽に使えるクラウドを横目に見つつも、利用に二の足を踏んでいる。提供する側も、クラウドサービスの提供方法を知らない。需要もなければ、供給もできない状態にある。こんな状況を打破するために、ユーザー企業側とITベンダー側の意識改革をするのが、CCBNET.の目的だ。
もう一つ、このクラウド提供に必要な技術を養う目的としても、同地域発の「Ruby」を地域内に広め、地元に多い受託ソフトウェア開発会社のビジネスモデルを変革しようとしている。「Ruby」を積極的に推進する島根県だけにとどめず、中国地方全体でIT技術力を引き上げていく。ただ、これら施策は、行政機関が主導する限定的な取り組みにすぎない。今回のCCBNET.が、地場ITベンダーへの委託事業にしているのはそのためだ。自ら積極的にこれを利用するITベンダーが出てくることが望まれる。