日本経済の停滞を受けて、海外に活路を見出すユーザー企業は、業種・業態を問わず増えている。それに比例するように、海外に拠点を設置する企業も増加傾向にある。その拠点のITシステムはどうなっているのか。海外拠点の情報システム構築にどの程度の費用をかけ、どのようなITベンダーに任せているのか。また、悩みは何なのか──。ユーザー企業が海外に出れば、ITベンダーのビジネスにも関係してくる。ユーザー企業の海外IT事情を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「進出状況」を読む
中国に照準を合わせる企業が多い
海外への進出は、ごく一部の大企業という時代は終わり、今は中堅・中小規模のユーザー企業でも外国に拠点を置き、製品を開発・製造したり、販売したりするケースが増えている。調査会社のノークリサーチが2010年11月に、年商5億円以上500億円未満のユーザー企業に対して海外の進出状況を調べた結果がある。それによると、年商5億円以上50億円未満で9.5%、50億円以上100億円未満で28.5%、100億円以上300億円未満では26.0%、300億円以上500億円未満で44.0%がすでに海外展開しているという。その進出地域を示したのが、下の図だ。これは、すでに海外展開をしている、または今後予定のあるユーザー企業に対して、その進出地域をたずねた設問の回答で、注目点は、ユーザー企業の年商規模を問わず、中国が約50%を占めていることだ。従来の生産拠点としてだけでなく、市場として隣国の中国に関心を示しているユーザー企業が多いことを示している。
ユーザー企業が海外展開中または予定している主な地域
figure 2 「IT投資額」を読む
2011年のIT予算額は約2000億円、製造業が大半
調査会社の矢野経済研究所は、日本企業の海外拠点におけるIT投資額を、年間で2047億円(2011年)と試算している。この数字は、日本の本社におけるIT投資額が対象で、海外拠点が独自にもつIT予算額は含んでいない。ユーザー企業の業種ごとに内訳をみると、製造業のユーザー企業が大半を占め、その占有率は90.2%と圧倒的に高い。それ以外の業種は、すべて足しても10%に満たない。製造業は海外進出に積極的で、1社あたりの海外拠点数も多い。生産管理やサプライチェーンシステムといった大規模システムを構築するケースも多く、投資額が大きいことも影響している。ただ、最近の日本企業は、生産・開発拠点としてではなく、営業拠点として海外に法人を設立するケースが多くなっている。矢野経済研究所では、「小売・流通業やサービス業といった非製造系の企業が海外に進出するケースが急速に増えており、それに比例するようにIT投資額も非製造業が占める割合が、今後は増える」とみている。
日本企業の海外拠点でのIT投資規模
figure 3 「発注先ITベンダー」を読む
現地のITベンダーから購入するケースが多い
日本企業の海外拠点に対するIT投資額は増加する可能性が高い。では、その投資額を手にするのは、どの国のITベンダーか。その答えを示したのが右の図だ。このデータは、日本の海外拠点がIT機器・サービスを購入する場合、日系なのか、海外拠点を置くその国の現地企業か、それとも、米IBMなどの世界的ITベンダーなのかをたずねた結果を表している。今年7~8月に年商100億円以上の企業の海外拠点に聞き、212社から有効回答を得た。日本企業の海外拠点は、現地のITベンダーから製品・サービスを購入する比率が圧倒的に高い。212社中135社の日本の海外拠点が、現地のITベンダーから製品・サービスを購入しており、その比率は63.6%にも上る。矢野経済研究所は、「価格の安さと、現地の法律・商慣習に詳しい点などを評価して現地のITベンダーを利用している」と分析。逆に、日本のITベンダーは「国際対応力が弱い、価格が高い」ことがネックになっているとした。ただ、今後は日本のITベンダーにビジネスチャンスが増えるともみている。ユーザー企業は日本だけでなく、世界の各拠点を含めたグローバル共通の基幹システムを構築しようとする動きがある。基幹システムの見直しは、日本本社の情報システム部門が主導するケースが大半で、本社とつき合いのある日本のITベンダーに任せるケースが増えるというのがその理由だ。
日本企業が海外で利用しているITベンダー
figure 4 「ユーザーの悩み」を読む
求む! グローバルIT戦略を立案できる人材
商慣習や仕事の進め方が日本とは異なる国では、情報システム部門が抱える課題や悩みも日本にはないものがある。海外に拠点を置く国内企業のCIO(最高情報責任者)に、海外拠点のITの課題についてたずねた調査がある。上位は「グローバルIT戦略を立案できる人材の確保・育成」「海外進出拠点でのIT管理者レベルの確保・育成」「本社と海外進出拠点間のコミュニケーション」だった。多くのCIOは、言語や商慣習の壁を越えて、世界各国の拠点を横串でみた情報システムの企画立案と、運用業務を任せられる人材を求めていることが明らかになっている。このレポートをまとめたIDC Japanでは、海外に拠点を置く日本企業は、海外拠点の売り上げや生産量が増えるに従い、「ITの課題も段階的に変化していく」とも分析している。同社は、その変化の流れを「集約→分散→集約」というキーワードで表している。そのプロセスは──海外に進出した初期段階では、日本にある情報システム部門が海外拠点のシステムを企画する。だが、一定の規模に成長すると、海外拠点にある程度の権限を与え、各海外拠点が独自にシステムを企画・構築する。そして、その後のステップとして、日本の本社がグローバル共通のシステムを構築・運用したいと考え、再び日本の本社が主導する──という流れである。
海外拠点におけるITの課題