パブリッククラウドサービス「IIJ GIO」を提供するインターネットイニシアティブ(IIJ、鈴木幸一社長)グループは、アジアを中心として、「IIJ GIO」の海外展開を本格化している。2012年2月、中国・上海にアジア初の現地法人を設立し、2012年度(13年3月期)の早い段階から現地企業を海外ビジネスのターゲットとしていく。来年度以降、東南アジアの4~5か所に拠点を設け、「IIJ GIO」の現地企業向け販売を柱として、2015年までにおよそ100億円の海外売上を目指す。(ゼンフ ミシャ)
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インターネットイニシアティブ 丸山孝一 執行役員 |
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IIJグローバルソリューションズ 岩澤利典 社長 |
IIJ(2011年3月期の連結売上高=約824億円)は、本紙の取材に応じて、アジアを中心とした海外戦略の詳細を明らかにした。
IIJは来年2月の上海拠点設立を皮切りとして、海外ビジネスの領域を、既存の米国市場に加えて、急成長を遂げているアジア各国に拡大する。グローバル展開に本腰を入れて、将来、海外ビジネスを全社事業の重要な柱とする考えだ。同社は、各種のネットワークサービスやクラウドサービスを海外向けの商材としているが、なかでも、国内で売り上げが順調に伸びているパブリッククラウドサービス「IIJ GIO」(図参照)の提供に注力する。国内のパブリッククラウドベンダーとして、サービスをグローバルで展開していく動きとしては、IIJが際だっている。
IIJは、海外展開にあたって、グループ会社との連携を強めている。上海拠点など、IIJグループの海外現地法人を設立するのは、WANサービスを提供するグループ会社のIIJグローバルソリューションズ(IIJグローバル)だ。IIJグローバルは、同社の前身であるAT&Tジャパンがおよそ10年にわたって世界各国でネットワークサービスを展開してきた蓄積があり、各国市場の情勢に精通している。来年の2月に、まず中国で事業活動を開始し、12年度の後半から順次、シンガポールやベトナム、マレーシア、インドなど東南アジア4~5か所に現地法人を立ち上げる。各現地法人の周辺市場にビジネスを広げる計画だ。
IIJグローバルの岩澤利典社長は、「有望市場の中国では、2012年2月にプライベートクラウドサービスの提供を開始し、さらに、12年度上期の早い段階から、パブリッククラウドの『IIJ GIO』を提供する」とロードマップを披露する。同社は、「IIJ GIO」などを中国に進出した日系企業に提供するかたちで海外展開を開始するが、「早いうちに、主要ターゲットを本格的な事業拡大に欠かせない現地企業にシフトする」(岩澤社長)という考えを示している。
IIJ本体で国際事業を統括する丸山孝一執行役員は、「中国/アジアを中心とした海外ビジネスの2015年の売上目標は100億円、つまり、全社の売上高のおよそ10%。日系企業向けの提供だけでは実現できない」として、「海外ローカル市場の開拓を狙って、早くから手を打っていく」と意気込む。具体的には、現地の販売パートナーの獲得に力を入れている段階で、「中国の大手SIerと連携の話を進めているところ」(丸山執行役員)だ。来年度中に、設備コストが抑えられる小型のコンテナ型データセンター(DC)を中国各地に設置し、現地に置いたDCからサービスを提供する。
IIJグループは、パブリッククラウドサービスの「IIJ GIO」に加え、「IIJ GIO」上で動くアプリケーションなどのSaaS型サービスをグローバルで提供する準備を整えている。サービスプロバイダをはじめ、国内に数多く有する「IIJ GIO」のパートナー企業の海外進出をサポートすることによって、「IaaSからSaaSまでの幅広いサービスメニューを海外でシームレスに展開したい」(岩澤社長)という。
丸山執行役員は、「海外事業では、当面、日系企業向けビジネスの売上比率が高いだろう。しかし、早い段階から現地企業に向けた展開に力を入れることによって、将来、現地企業がメインの売上リソースになるための基盤づくりを全力で進めたい」と構想を語っている。

「IIJ GIO」単月売上高と案件数の推移
表層深層
成長著しいアジアの市場にフォーカスを当てて、パブリッククラウドサービスを注力商材として海外に進出する国内ベンダーは、IIJグループが初となる。
北米を強く意識して、パブリッククラウドサービスをグローバルで展開するGMOクラウドなど、海外ビジネスの立ち上げに取り組んでいる国内ベンダーは、数は少ないながらも、ほかにもある。しかし、彼らは現時点で、アジアの現地市場に食い込む戦略を採っていない。
アジアは、中国にとどまらず、インドや東南アジアの国々など、経済の成長に合わせて、ユーザー企業が自社サービスの基盤となるクラウドインフラを求めるニーズが急増している。アジア市場は、中長期的にみて、日本国内と比べものにならない巨大なポテンシャルをもっている。もちろん、国や地域によって情勢が大きく変わったり、さまざまな制約があるので、北米と比べて事業展開のハードルが高い面がある。しかし、市場規模の大きさからすれば、早めに手を打って、市場の開拓に挑む価値は間違いなくあるはずだ。
IIJは、以前にもアジアに進出した経験がある。インターネットバブルのピーク時に、アジアでデータセンター事業を立ち上げようとしたが、バブルが弾けた影響で、ビジネスがうまくいかなかった。IIJは、過去の失敗からも学びながら、進出する前に、その国の市場情勢を細かく分析することに力を入れるという。今回こそ、全力を挙げてアジア市場を開拓する覚悟のようだ。