コンピュータソフトウェア協会(CSAJ、和田成史会長=オービックビジネスコンサルタント社長)と中国ソフトウェア産業協会(CSIA)は、10月28~30日、中国の江蘇省徐州市で第1回「日・中企業情報化ソフトウェアサミット」を開催した。日本からは25社40人ほどの関係者、中国からは多くの政府幹部が出席した。(取材・文/信澤健太)
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| CSAJの前川徹専務理事。クラウド・コンピューティングについて講演した |
「日・中企業情報化ソフトウェアサミット」は、日本と中国のIT産業が緊密に連携していくことを目的とするもの。10月29日の開幕式では、中国国家工業・情報化部の楊学山副部長と情報化推進司の徐愈氏、CSIAの趙小凡副理事長と胡崑山副理事長、江蘇省経済・情報化委員会の陳震寧主任、徐州市人民政府の張敬華市長、中共泉山区委の張引書記などの中国政府の要人が登壇し、挨拶の言葉を述べた。日本からは、CSAJの和田成史会長が中国政府の熱烈な歓迎に謝意を表した。
中国ソフトウェア・情報サービス業の企業信頼性評価に関する授与式を挟んで、CSAJとCSIAの間で、IT産業の発展に向けた交流や連携強化といった活動を推進する覚書が締結された。
CSAJの前川徹専務理事は、「クラウド・コンピューティング・情報処理におけるパラダイムシフト」と題して講演した。前川理事は、「1984年がメインフレーム時代のピーク。Apple llの登場でパソコンはオモチャから情報処理の道具に変わった。93年に登場したのがNCSA Mosaic。これによって、研究者のインターネットが一般にも普及するきっかけとなった」と話し、2008年以降はクラウドの波が情報処理のパラダイムシフトとなる見方を示した。
また、ユーザーとベンダーの視点それぞれからクラウドがどう捉えられるかを説明。ユーザーは「所有」から「利用」に移行し、ベンダーは「商品の販売」から「サービスの提供」にビジネスモデルを変化させることになると指摘した。
続いて、東洋ビジネスエンジニアリングの羽田雅一取締役らが、自社の要件に合致するパッケージとSIerの力量という観点から「製造業におけるITソリューション導入のポイント」を紹介。ERPの導入は新しいシステムをつくることではなく、勝ち抜くための新しい業務の仕組みをつくることである、といった導入の勘所を強調した。
ビジネス商談会では、ワークスアプリケーションズやオービックビジネスコンサルタント、クオリティ、トレンドマイクロ、サイボウズなど約20社が事業概要について発表。各ベンダー関係者は、その後の名刺交換会や夕食会で、中国での事業展開の足がかりをつかもうと、積極的に中国側の関係者と会話を交わしていた。
イベント最終日の10月30日、CSAJのメンバーは徐州ソフトウェアパークを訪問した。このソフトウェアパークは総面積が約7.2万m2、総投資額が6億人民元に及び、金蝶や江蘇集群など約70社が入居。徐州市泉山区政府の投資を受けており、ソフトウェア産業やアニメーション、漫画などの文化産業を育成している。
具体的には、徐州エンジニアリング機械集団や徐州華洋科技などの地元企業のほか、中国鉱業技術大学や研究所と連携して組み込みソフトの開発を推進。また、徐州の人件費は低く、ソフトウェアパークの周辺にはソフト開発会社が17社以上あることを理由として、アウトソーシングのメリットを打ち出している。日本のベンダーに対しては、組み込みソフトウェアの開発環境が充実していることやオフショア開発拠点としての有望性をアピールポイントとしている。
CSAJメンバーは、この機会を生かして入居企業との交流を深めた。

多くの中国政府幹部が出席

CSAJとCSIAの間で、IT産業の発展に向けた覚書が締結された
CSAJの和田成史会長に聞く
サミットの手応え  |
CSAJ 和田成史会長 |
中国がIT産業の育成に力を入れ始めた。日本のベンダーがもつIT技術を自国のIT産業の発展に活用しようという機運が高まっている。
きっかけはいくつかあるが、一つ挙げれば、ITを活用していかに労働生産性を高めていくかという問題意識を中国がもつようになったからだ。
これまで農村から都市部へ出稼ぎに出ていた人たちは、内陸部に設立される工場が増えて、帰郷し始めた。その結果、沿岸部を中心に人手不足に陥っている。
ほかの面にも目を向けてみると、中国は今、不況下にある日本や欧州、米国からのオフショア開発の受注が激減しているという問題に直面している。従来は薄かった知的財産権に対する意識の高まりもみられる。
中国は、日本と組んで産業の新たな方向性を見出したいと考えている。今回のサミットは、中国と日本のIT産業にとって、重要な転換点になるはずだ。(談)