ガス器具大手のリンナイ(内藤弘康社長)は顧客価値の最大化に向けて、顧客関係管理(CRM)に強いシナジーマーケティングが開発するクラウド型“社会知”データベース「iNSIGHTBOX」の実証実験を継続して行ってきた。2009年に「iNSIGHTBOX」開発のモデルケースとしてECサイトの販売促進に取り組み始めて以来、着実に成果を上げている。
リンナイ
会社概要:1920年、林内商会創設。1923年、ガステーブルコンロやガス湯沸器などの取り扱いを開始。2011年3月期の連結売上高は、2394億円。従業員数は8394人(連結、2011年3月31日現在)。
サービス提供会社:シナジーマーケティング
プロダクト名:「iNSIGHTBOX」(実証実験)
「iNSIGHTBOX」の概要

リンナイの司馬由佳氏(左)と福本啓史室長
リンナイは、愛知県名古屋市に本社を置くガス器具大手。厨房機器や給湯機器、空調機器などを開発・販売している。従来は、代理店を通じて製品・サービスを提供していたため、「末端のお客様の顔が見えなかった」(管理本部eビジネス推進室の司馬由佳氏)という。リンナイがもつブランドの価値向上とファン獲得への取り組みが十分ではなかったのだ。
新たな試みとして着手したのが、Eコマースサイト「R.STYLE(リンナイスタイル)」を通じた顧客との接点づくりだった。2006年にサイトを開設し、一般消費者が直接ガスコンロやガステーブルを購入できるようにした。「当社製品のユーザーは、一度購入すると15年は買い替えない」(福本啓史・管理本部eビジネス推進室室長)という傾向があるため、製品に関わる鍋・土鍋や掃除グッズなども提案し、顧客をリンナイユーザーに引き止めてきた。福本室長は、「全購入者の10%以上からカスタマーレビューが寄せられている。『次もリンナイ』という声が圧倒的に多い」と手応えを語る。代理店を通すよりも早く製品が手に入ることや、サイトのわかりやすさが、ブランド価値の向上に一役買ったとみている。
さらに一歩進んで、優良顧客の候補と良好な関係を築いていくために実施したのが、慶應義塾大学大学院経営管理研究科との共同研究による優良顧客の識別モデリングとアプローチだった。シナジーマーケティングがクラウド型“社会知”データベース「iNSIGHTBOX」の開発にあたり、モデルケースとして支援した。顧客データの分析の段階で、「R.STYLE」の注文データや出荷データ、クリック履歴における因子同士では有意な相関が見出せず、購入頻度やキャンセル履歴は要素として強くなかったので、「割り切って、総購入金額を従属変数とした回帰分析で関係性の強い独立変数を検出した」(福本室長)という。
ビルトインコンロの購入金額をはじめとして、関係性の強い五つの変数が見つかり、それらが優良顧客の識別のための重要な要素「ドライバー」であることがわかった。また、「ドライバー」に対して関係性の強い独立変数の回帰分析を実施。メールマガジン内にある「収納お掃除ヒント4」をはじめとする特定6URLへのクリック経験の有無と強い関係があることが判明した。
「ドライバー」製品を購入した顧客の平均総購入金額がそれ以外のケースよりも高いことを受けて、特定6URLへのクリック経験がありながら「ドライバー」製品未購入、購入経験のない優良顧客候補に対してプロモーションメールを配信した。結果、平均メール開封率は57.6%に上り、リンナイスタイルの退会者はわずか0.6%だった。
2011年に入り、さらに分析精度を上げるために他社のデータを相互利用できる「iNSIGHTBOX」プロトタイプを利用した新たな施策に取り組んだ。半年分の売り上げの約80%を占める上位190アイテムのうち、汎用性のある製品をピックアップ。それらと関係性の強い顧客を抽出したうえで、「流し台」「清潔感」といった“響く”キーワードを反映したメルマガを配信した。無作為抽出した顧客に比べて、メールの反応率は約6倍となった。
リンナイは、他社と相互利用できるデータを活用していくことで、さらなる販促強化につなげていく考えだ。例えば、他社の購買データから30代女性の生活スタイルを分析し、それに合わせて同社の製品を提案するといったことが可能となる。(信澤健太)
3つのpoint
・優良顧客の識別と的確なアプローチ
・ブランド価値の向上
・他社データの相互利用による“社会知”