本格的な立ち上がりをみせた国内PaaS/IaaS市場。2010年度から2015年度までの年平均成長率は35.9%で、2015年度には1300億円規模にまで達する見込みだ。現時点では、PaaS/IaaSは一部の積極的な企業が利用するにとどまっており、今後は徐々に利用範囲が広がっていくとみられる。ベンダーは続々と市場参入を表明し、すでに競争激化の様相を呈している。下位ベンダーは苦しい戦いを迫られそうだ。(文/信澤健太)
figure 1 「市場規模」を読む
2010~15年度の年平均成長率は35.9%
調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)によると、2010年度の国内PaaS/IaaS市場規模は前年度比311.1%の280億円だった。2011年度は560億円の見込みで、2010年度から2015年度までの年平均成長率(CAGR)を35.9%と予測。2015年度には1300億円規模にまで成長するとみる。なおITRではPaaSを、開発環境、言語実行環境、ミドルウェアをネットワーク経由で提供するサービスと定義。一方でIaaSを、CPU処理能力、メモリ、ストレージといったハードウェア資源をネットワーク経由で提供するサービスとしている。従来のホスティングサービスや専有ハードウェアの提供についても、クラウドサービスの一部と見なしている。調査会社のIDC Japanは、ホスティング型のプライベートクラウドが著しく発展していると指摘。プライベートクラウドの伸長がパブリッククラウドの理解を促し、互いに影響し合って国内クラウド市場を拡大する要因になるとしている。
国内PaaS/IaaS市場の販売実績と予測
figure 2 「利用傾向」を読む
バックアップや業務アプリ稼働に用途が拡大
日本IBMは、ユーザーが享受するクラウドサービスの五つの価値を挙げている。(1)ビジネススピードの向上、(2)資産の変動費化、(3)セキュリティ・ガバナンスの向上、(4)TCOの削減、(5)新規ビジネスの創出──である。多くの企業は、消費者向けインターネットサービスの基盤をはじめ、特定アプリケーションのカスタマイズ開発/実行、新規ウェブアプリケーションの開発/実行環境として、PaaS/IaaSを利用している。調査会社のIDC Japanによると、2011年以降はこれらに加えて、PaaS/IaaS上でバックアップシステムを構築したり、業務アプリケーションを稼働させたりする企業が増えているという。ITRの藤巻信之シニア・アナリストは、「ゲーム産業でPaaS/IaaSがよく利用されてきた。最近は、基幹系システムをPaaS/IaaS上で稼働させる事例が増えている。長期的にはコスト高になる可能性もあるが、運用の効率化などでメリットはあるという認識は広がりつつある」と説明する。
クラウドサービスの五つの価値
figure 3 「市場シェア」を読む
2010年度に参入した富士通が急伸
ITRによると、2010年度、本格的に国内PaaS/IaaS市場に参入するベンダーが増えたことを受けて、前年度比で市場規模が3倍超に拡大した。なかでも注目に値するのが富士通の急伸だったという。2010年度のベンダーシェアの順位は、2009年度以降に大きく変動。2009年度にトップシェアだったセールスフォース・ドットコム、同率2位の日本IBM、アマゾンデータサービスジャパンといった外資勢が2010年度にそれぞれ売り上げを伸ばしたが、2010年度に市場参入した富士通が2位以下に2倍以上の差をつけてトップの座についた。シェアは、2位である日本IBMの8.6%に対して17.9%だった。ITRは、「富士通は、サービスメニューの豊富さから海外展開している大手既存ユーザーを中心に急速に導入が進んだ」と分析する。大手ベンダー各社は、既存ユーザー企業の基幹システムをクラウド基盤に移行することを促すことで、PaaS/IaaSの売り上げを伸ばしている。ITRの藤巻シニア・アナリストは、「アマゾン、IBM、セールスフォースが注目株。2011年の国内データセンターの開設を受けて、さらなる伸びが予想される。PaaS市場ではセールスフォースがダントツ。2009年、クラウド上でエコポイント申請サイトを構築したことをきっかけに注目度も高まっている」と分析する。
国内PaaS/IaaS市場ベンダーシェア(2010年度・金額ベース)
figure 4 「方向性」を読む
競争激化に伴いベンダーの淘汰が進む
調査会社のミック経済研究所によると、2009年度は新規参入ベンダーが10社程度だったが、2011年度には20社以上に倍増。例えばPaaS領域で、国内勢ではグループウェア大手のサイボウズが、外資勢ではオラクルが市場に参入した。最近は準大手から中堅規模のベンダーの市場参入が増加し、今後市場がさらに活発化するとみる。そうしたなかで競争が激化することは必至で、「2010年度くらいからすでにベンダーの淘汰が始まっている。今後、下位ベンダーはサービスの存続が難しくなる」(ITRの藤巻シニア・アナリスト)という厳しい見方もある。
中長期的には、大手企業に加えて中堅・中小企業におけるPaaS/IaaSの利用も進むとみられる。東日本大震災を受けて事業継続計画対策に対する意識が高まっており、自社内にシステムを保有することを不安視する企業が増えていることが普及の一助となりそうだ。ただ、調査会社のガートナーは、大部分の中規模企業・大企業でPaaSの採用が進んでも、今後5年間はクラウドへの大規模な移行につながることはない、と分析。オンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド型の形態を採る企業が多いとみる。そこで重要性を増すのが、アプリケーション連携プラットフォームであるiPaaSだという。
国内PaaS/IaaS市場の今後