コピー・プリンタメーカーが加盟するビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA、山本忠人会長=富士ゼロックス社長)は、このほど異なるメーカーのオフィス機器間の接続やデータ交換を可能にする標準仕様「BMLinkS」開発の取り組みで、初めて、非会員のシステムインテグレータ(SIer)に対して開発キット(SDK)の提供を開始した。「BMLinkS」の開発は1998年から継続的に行い、これまでに共通ドライバなどを公開してきた。JBMIAの加盟メーカー各社の「BMLinkS」対応機種は増えたが、この標準をもとに周辺ソフトを開発するSIerはまだ少ない。今回のSDK提供が波及の“起爆剤”になるかどうかが注目点だ。(取材・文/谷畑良胤:本紙編集長)
デバイス管理とアプリ開発用を提供
「BMLinkS」は「Business Machine Linkage Service」の略称で、呼び方は「ビーエムリンクス」。JBMIAの「BMLinkSプロジェクト委員会」(参加9社)が提唱するコンセプトで、ネットワーク環境下でオフィス機器間の接続性とデータ交換性を向上させるための「統合化したインターフェース」を実現するのが目的だ。
多くの企業では、異なるメーカーのコピー・プリンタなどを混在しながら配置している。そのため、各メーカー機器の利用環境を改善するソフト開発が困難で、異機種間の連携に支障を来している。この状況を改善し、コピー・プリンタの販売を促進しようと、JBMIAでは1998年から標準仕様の開発に着手している。
今回、提供を開始したのは、マルチファンクションプリンタ(複合機=MFP)をはじめとするシングルファンクションプリンタやスキャナなど、オフィス機器のデバイス管理と印刷に関するソフトを開発する標準SDKだ。これまでも、委員会では、共通プリンタドライバやスキャン・ストレージ仕様などの標準仕様を公開し、デバイス管理についても08年に仕様を明らかにしている。だが今回は、「2010年からの活動方針として『活用』することを掲げており、その標準仕様を非会員にも公開し、広く利用を促すことにした」と、委員会の委員を務めるキヤノンの江尻征志・映像事務機戦略企画部長は経緯を語る。
今回提供したSDKのうち、「オフィスデバイス管理標準SDK」は、以前開発した「BMLinkSオフィスデバイス管理標準インターフェース」を使って、異なるメーカーのオフィス機器を統合的に管理するアプリケーションソフトを作成するための開発キットだ。このSDKを使えば、機器の設定変更や状態監視、利用状況(ログ)取得が可能になる。管理標準のSOAPインターフェースの定義(WSDL)とその仕様書を提供した。委員の一人であるリコーテクノロジーセンターの丹羽雄一・シニアスペシャリストは「Windows上で動作するエミュレータで、仮想のBMLinkS機器として接続性やエラー処理の検証に利用できる」と説明している。
「環境見える化」の標準も提供
一方の「プリントクライアントSDK」は、BMLinkS対応機器のプリントサービスを利用するソフトを作成するための開発キットとして、今回新たに開発した。このSDKを使えば、BMLinkS対応プリンタ・複合機に共通する印刷アプリを開発できるようになる。丹羽シニアスペシャリストは、「個別メーカーの印刷機能に関連したアプリは、SIerなどによって数多く開発されている。しかし、これらは異なるメーカー機器間では使用できず、不便さを感じている」と問題点を指摘しながら、このSDKでこうした問題が解決できるとアピールする。
二つのSDKは無償で提供されるが、産業財産権に関する「BMLinkS標準仕様およびSDKの使用に関する同意書」に同意することが利用者に義務づけられる。委員である富士ゼロックスの加藤康夫・契約推進グループマネジャーは、「昨年末時点で、12社の有力SIerとコンタクトし、ほとんどのベンダーから『使いたい』との意向が寄せられた」と、上々の反応を得ている。
また、委員会では、BMLinkSの標準仕様を使った「活用」を推進する方策として、使用電力量やピーク電力の抑制といった社会的な要請に応える目的で、オフィスデバイス環境に関する「見える化」と制御を実現するための業界標準の制定を進めている。丹羽シニアスペシャリストは、「今回提供するオフィスデバイス管理標準SDKを拡張することで、消費電力を抑制することができる。さらには、紙の使用量やCO2の排出量などを測定でき、環境対策だけでなく顧客のコスト削減にも貢献できる」と、利点を説明する。今年5月にも制定を予定しているが、環境面とコスト面の「見える化」は顧客の要望が高く、これによりBMLinkSの波及が加速すると期待している。
BMLinkS準拠のコピー・プリンタは、すでに500機種以上にのぼる。新規に投入する機器では、一部メーカーを除き、国内販売分のほぼすべてに搭載されている。ただ、JBMIA加盟メーカーの社員ですら、その存在を知る人が少なく、使う側のSIerにも認知度が低いのが実際のところだ。
今回のSDK提供に関しては、これまでの標準仕様に比べてSIerの反応は良好だ。このSDKを利用したことによってSIerや導入先の顧客にメリットをもたらした事例が多く現れれば、着目する売り手は多くなる。東日本大震災以降、事業継続の観点で社内ドキュメントの管理・運用を効率化するニーズは高い。この潮流に乗って市場浸透を図る動きこそが重要になる。