東日本大震災は、ある意味、ITベンダー経営者の背中を押したといえる。これまで温めてきた研究・開発を事業化し、売り上げが落ちた受託ソフト開発の穴埋め策として投入したり、将来を見据えた取り組みとして新たな事業を開始したりしている。スマートデバイスやクラウドなどと自社の強みを融合させたアイデアが目立つ。
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[宮城県]介護・福祉向けクラウドが人気
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震災を受けて、受託ソフト開発から自社パッケージ開発への事業変革を目指すトレックは、東北地区で需要が高まっている介護・福祉向けと農業向けのシステム開発を始める。柴崎専務は、「訪問介護などの領域では、ITが使われていない。介護福祉士の訪問介護業務の行動管理を位置情報などの技術を使ってパッケージ化し、SaaS/クラウドで手軽に使えるようにしたい」と話す。農業向けに関しても、「高齢化で農業継承者が減り、生産活動を工業化する必要がある」と、地場産業の発展に貢献するために、地域の第一次産業を立て直す必要を感じている。
中国・西安出身の西原翼社長がオフショア開発会社として05年に創業したグッドツリーも、震災を契機に、新規分野として介護・福祉向けのクラウド・サービス「ケア樹」の提供を開始する。西原社長は、「当社の『GoodLeaf』という電力診断コンサルティングの顧客先に、多くの介護・福祉施設があった。これらの施設と接するなかで、介護・福祉向けのシステム開発を思いついた」という。第一弾として、今年4月、特別養護老人施設向けのクラウド・サービスを開始する。
グッドツリーによれば、この領域の競合として東北地域で高いシェアをもつのは、岩手県のワイズマンと山形県のエヌディーソフトの2社。ただし、「ITが行き渡っていない介護・福祉施設は、宮城県だけでも数百ある。iPadなどを使って広めたい」と、仙台と西安を結ぶオフショア開発でソフト開発費を抑え、安価なクラウド・サービスとしてITが使われていない施設への販売を開始する。
ここに至るまでにも、山や谷はあった。「GoodLeaf」は、震災後に案件が激減。この穴を埋めたのが、岩手県水沢にある国立天文台も使っている米国製のCMS(コンテンツ管理システム)「Durparl」だった。これを使ったウェブサイト構築案件が増えたことで、11年度(11年12月期)の業績は、黒字で終えることができたという。
草の根営業で新規案件を受託
「震災で、改革を加速することになりそうだ」と語るのは、製造メーカーの下請けが9割を占めるソフト開発を主力とするキャロルシステム仙台の斉藤取締役。リーマン・ショックの後から事業改革に取り組んできた同社では、毎週水曜日に社内で「ビジネス研究会」を開催し、新たなビジネスモデルの議論を進めてきた。「労働集約型の事業モデルはいずれ崩壊する。将来は下請けではなく、自立する」と、新たな分野に挑戦し続けている。
事業化につながる芽が出てきたのが、製造会社向けの品質管理システムだ。完成品間近の製品の品質を測定し、そのデータを管理するシステムだという。工場の経験がある斉藤取締役のアイデアだ。このほかにも、関連会社で東京・渋谷にあるキャロルシステムが特許をもつサイネージ関連で、スマートデバイスと連携したシステムを模索中だ。
東北地方に特化した技術アウトソーシング会社の東日本スターワークスは、主に正社員を東北の製造業の開発・設計工程に派遣している。震災直後は、製造業の大動脈である東北のサプライチェーンが破壊された影響で開発業務が一時的になくなり、多くの社員が派遣先から戻ってきた。しかし、飯田仁也社長は、「将来の復興を見込んで雇用維持を優先した」と、首都圏などの関連会社に一部開発者を異動した。
人員をやりくりしながら、飯田社長は、「草の根の営業活動を展開した」ともいう。受託ソフト開発のマイナス分を取り戻すために、人員を営業に振り分けた結果、アイリスオーヤマなど、地元大手企業から開発・設計案件を受託した。同社は新規事業にも意欲的だ。一つは、東北大学の研究チームと連携し、足こぎ車イスの設計を手がけた。仙台市内の産学ベンチャー、TESSが開発した製品の商品化を3次元CADの領域で支援した。「過去に培った技術・ノウハウを新規事業に生かしながら、スマートフォン向けなどの新しいスキルを身につける」(飯田社長)と、スマートデバイス向けの開発も視野に入れる。
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