2010年、NEC(遠藤信博社長)とNECネクサソリューションズ(NECネクサ、森川年一社長)は、中堅・中小企業(SMB)向けのクラウド/SaaS事業の強化を発表した。NECネクサの当初の中期目標は、12年度(13年3月期)までにパートナーによる販売で8000社のユーザー獲得。しかし、現在は目標値の見直し中である。取材を通じて、クラウド事業の進捗具合がみえてきた。
NECネクサは、年商100億円未満の中小企業に対してクラウドサービスを間接販売している。販売を任されているのは、NECグループの販売店をはじめ、事務機ディーラー、オービックビジネスコンサルタント(OBC)が開発する「奉行シリーズ」や応研が開発する「大臣シリーズ」のパートナーなどである。約300社がクラウドサービスの再販契約を締結しているが、ユーザー企業は約300社にとどまり、事業は順調とはいえない状況だ。パートナーと中小企業の視点に立てば、その背景がみえてくる。
NECグループの販売店は全体で約350社。この数字を含めたパートナー全体でみて、ユーザー企業が約300社というのは決して多くはない。NECネクサの青木邦孔・パートナービジネス営業事業部長は、「パートナーの開拓が進まなかった」と実状を明かす。パートナーの多くが、既存のライセンスベースのビジネスへの悪影響を懸念していることが伸び悩みの大きな要因だ。営業担当者の評価制度の確立といった課題も無視できない。
中小企業の立場でいえば、個々のパッケージと単純比較すると、決して安価ではないクラウドサービスの価格が利用拡大のネックとなっている。そもそも「『基幹業務SaaS by 奉行i』と『基幹業務SaaS by 大臣』は3年の最低契約期間が設けられており、ユーザーからみればリースと変わらない」(OBCや応研、ピー・シー・エーなどのパートナー幹部)という意見もある。
こうした状況に、NECネクサは手をこまぬいているわけではない。巻き返しを狙って、販売拡大に期待するのが、11年1月19日に提供を開始したクラウド型グループウェア「わくわくオフィス」だ。「SFA」「ワークフロー」「レポート」などのオプションを揃える。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」に対応したサンプルを提供する「BCP」も加えた。
すでにクラウドサービスの提供実績がある約300社のうち、100社以上が「わくわくオフィス」を利用している。これに基幹系サービスであるOBCの「SaaS by 奉行i」や応研の「SaaS by 大臣」を組み合わせ、企業の主要業務をワンストップで提供するという。
青木部長は、「パートナーは必然的に変わっていく。クラウドビジネスに舵を切るパートナーが増えてきているので、2年待った甲斐があった」と楽観的だ。だが、前述の課題は根深い。「クラウドサービスは本質的には、サプライヤーにならなければうま味がない。他社のPaaS基盤を利用して自社でもクラウドサービスを提供できる」(前出のパートナー幹部)という声もある。クラウドサービスの販売メリットを今一度考慮に入れる必要があるという気がする。(信澤健太)