システム運用管理システムのビーエスピー(BSP、竹藤浩樹社長)とデータ・システム連携のビーコンインフォメーションテクノロジー(ビーコンIT、坂本桂一社長)のユーザー企業で構成する「Beaconユーザ会」(坪井祐司会長=LIXIL上席執行役員企画管理本部長)はこのほど、滋賀県の大津プリンスホテルで年一回恒例の「Beaconユーザシンポジウム」を開いた。国内最大規模のユーザー会が開いたイベントは、開催29回の歴史を誇る。「Beaconユーザ会」は、若手IT技術者の育成を主な目的にしている。若年層の技術力低下がいわれて久しいが、このイベントをみる限り、新しい技術の獲得意欲や技術力自体が底上げされているようだ。(取材・文/谷畑良胤)
変身を遂げたユーザー会 「Beaconユーザ会」は、1977年にユーザー相互の情報交換を目的に設立された。現在、LIXILなどのユーザー企業が270社以上加盟している。世界規模で開催する外資系ITベンダーのユーザー会を除けば、国内最大規模だ。ユーザーシンポジウムは、今回で29回を数える。当日は、過去最大の226社、690人が参加。来年は「記念の30回を迎えるので、700人の参加を目標にしている」(坪井会長)というように、規模は年々拡大している。
シンポジウムのメインイベントは、ユーザー企業に所属する若手技術者が1年間研究してきた成果を発表する場だ。BSP、ビーコンITの両社の製品・サービスに限らず、時宜にかなったテーマで取り組むのが特徴だ。「Beaconユーザ会」は、東日本、中部、西日本、九州の各地区に両社の製品・サービスに関連する情報活用研究会、システム運用研究会、ITフォーラムと称する研究組織がある。また、全国組織としてのマネジメント研究会と中国・上海にある上海ITフォーラムなどで組織されている。この日は、各地区の37研究グループから34グループが40分間ずつ発表。各グループには両社の専門家がコーディネータとしてアドバイスをしている。
7年ほど前からは、坪井会長の発案で、当日の発表前に論文提出を義務づけて運営事務局が審査をしている。「毎年5月頃に新規研究テーマを決め、月1回以上はグループが一堂に会し、具体的な研究を行う」(坪井会長)。しかし、7年前に新しいやり方を採用するまでは、シンポジウムの発表内容が陳腐化していたという。そこで、当日の発表内容の充実を図るために、論文をもとに最終段階のアドバイスを行っているのだ。
ビーコンITの坂本社長は、「15年ほど前までは、両社のツールを中心に据えた勉強会にすぎなかったが、最近は若手技術者が新しい技術などにチャレンジする場になっている。これだけ大人数で、しかもユーザー企業の上司が参加する前で発表することは、大きな自信につながる」と説明する。単にメーカー製品・サービスを扱う技術力の底上げを図るだけでなく、参加ユーザー企業の情報システム部門の技術力底上げなどに役立っているというわけだ。

今年の「Beaconユーザ会」のシンポジウムには、過去最大の690人が参加した
(滋賀県大津市の大津プリンスホテルで)

34の研究グループのなかから最優秀賞が選ばれた
若手技術者を育成する場 クラウドコンピューティングの普及に伴って、ユーザー企業が新しい技術のスキルを迅速に獲得する必要性は高まっている。だが、多くのユーザー企業の情報システム担当者は陰にこもりがちで、新しい情報を獲得する意欲に欠ける。この現状を放置すれば、システムインテグレータ(SIer)の言いなりに事が運ばれて、“動かないコンピュータ”が設置されてしまう恐れがある。BSPの竹藤社長は「ここで育った若手が、ゆくゆくは上位層の情報システム担当者になる。各企業の育成プロセスに『Beaconユーザ会』が組み込まれている」と、技術的な研究をメインとする他のユーザー会と異なる活動を展開していることを語る。
この言葉の通り、発表テーマは多岐にわたる。一例を示すと、主要ブラウザへの対応が進むHTML5や、ビッグデータに関連したHadoopやNoSQL、スマートフォンなどに関係する課題と解決方法など、直面する新しい技術に関する内容が取り上げられている。
この日、研究グループ活動の最優秀活動賞を獲得したのは、東日本情報活用研究会の「HTML5の可能性」と題した研究だ。HTML5を実際に活用・開発し、どんな場面で効果的に利用できるかを実証してみせたことが評価された。ビーコンITの坂本社長は「各研究会には、『完成させる研究』をお願いしている」と、実際に開発に取り組み、実証することが課されているのだ。
ユーザー企業の情報システムは、戦略的にITを利活用する場面が増えるほどに複雑化し、運用管理も煩雑になる。いかに安価で効率的なシステムを企業内の利用者に提供できるかは、情報システム担当者の手にかかっている。新しい技術を早期に習得し、生かすことができなければ、競合他社に後れを取り、経営的に窮地に追い込まれる。そういう意味で、この活動はユーザー企業の情報システムを底上げしている。(つづく)