ダイナミック・ケース・マネジメント(DCM)は、ビッグデータを企業や都市の経営に役立てる手法である。ビッグデータを手軽に効率よく分析するITシステムや、ここで導き出された結果を、経営に応用する企業文化や人材を育てていくことで、ユーザーのビジネスを成功に導く。DCMを実現するシステムやサービスを提供するITベンダー、SIerが今後、この分野でビジネスを大きく伸ばす可能性がある。(文/安藤章司)
figure 1 「ビッグデータ」を読む
ビッグデータ活用型の経営が主流に
2020年度には国内ビッグデータ関連市場規模が1兆円を超える──。調査会社の矢野経済研究所は、2011年度の1900億円から10年足らずで、国内ビッグデータ関連市場はおよそ5倍に拡大すると予測している。また、野村総合研究所(NRI)が示すITロードマップで鍵を握るとみる「ダイナミック・ケース・マネジメント(DCM)」は、このビッグデータの分析から導き出された結果を、ダイナミックに経営に反映させることを主眼に置く。ビッグデータそのものは、実はユーザー企業にとってあまり意味のあるものではなく、これをビジネスに活用してこそ価値が生まれてくる。ビッグデータから得た知見を分析し、最も適切なアクションを起こし、かつその結果を検証するPDCAサイクルを迅速に回していくITソリューションが、ITベンダーやSIerに求められているというわけだ。矢野経済研究所も、ビッグデータ市場が拡大期に入る2015年以降は、ビッグデータを活用して競争優位を狙うユーザー企業のIT投資が活発化すると予測している。
国内ビッグデータ市場規模の推移
figure 2 「構成要素」を読む
KKDとビッグデータは対極の存在
ビッグデータをベースにしてDCMの概念を示したのが下図である。これまでビッグデータといわれてきたものは、実は「狭義のビッグデータ」であり、ビッグデータから意味のある情報を導き出して経営に反映していくには「広義のビッグデータ」を視野に入れていく必要があるとNRIではみている。つまり、例えばカリスマ経営者のKKD(勘・経験・度胸)やセンスに依存した企業風土とビッグデータ活用の相性はよくないし、データを正確に分析する知見も根づきにくい。ITベンダーやSIerがビッグデータ市場を迅速に立ち上げていくには、ユーザー企業にビッグデータ分析の有用性を認識してもらいやすい商品やサービスをつくっていくことが必要となる。ペタバイトクラスの膨大な非構造化データの高速処理・分析システムを、安くて使い勝手がいいものに仕上げると同時に、ユーザー企業の経営方針や人材、組織にまで踏み込んで、ユーザーとともにビッグデータの活用を推進することが、市場拡大に不可欠となる。
ビッグデータの構成要素
figure 3 「スマートデバイス」を読む
ビッグデータのカギを握るスマートデバイス
DCMのベースとなるビッグデータは、根拠もなく出てきたものではない。ビッグデータの構成要素は、まず第一にiPhone/iPadなどのスマートデバイス、Facebookなどのソーシャルメディアが挙げられ、その後にM2MやIoT(インターネット・オブ・シングス)、スマートシティが続く。こうした幅広い領域をまとめて呼ぶアンブレラターム(総称)として都合がいい「ビッグデータ」という言葉が使われるようになったわけだ。
とりわけスマートデバイスには、GPSや加速度センサ、映像・音声を記録できるカメラなどさまざまな情報収集能力が備わっており、これをソーシャルメディアやクラウドサービスを使って極めて効率よく伝播できる。従来型携帯電話がレシプロ機なら、スマートデバイスはジェット機というほどの違いがあって、ここで生成する膨大な位置情報やテキスト、映像、各種センサ情報を企業経営に役立たせようというアプローチがDCMである。下図の通り、2016年には販売ベースでスマートフォンが7割強を占めるようになるとみられている。スマートフォンに内蔵されているようなセンサが低価格化、小型化し、家電や車載などあらゆる機器に組み込まれるようになれば、生成されるデータはさらに大幅に増えることは間違いない。
国内携帯電話端末の販売台数推移
figure 4 「DCM」を読む
DCMの適用範囲は都市レベルまで拡大する
DCM手法を積極的に活用するユーザー企業も徐々に増え始めている。ネット企業だけでなく、メーカーや小売店、外食チェーンなど伝統産業でも活用が進む。DCMのベースとなるデータは、スマートフォンなどモバイルインターネット系の印象が強い傾向があるが、これからは非ネット系のデータも急速に増えることが見込まれている。この代表格となるのが、複数のマシンを連携させるM2Mである。スマートフォンに内蔵されているセンサは、いずれあらゆる機器に応用されていく見通しであり、ほかにも、これまであまり普及してこなかったセンサの開発も進む。例えば「Kinect」のような安価で使い勝手のいいモーションキャプチャ、iPhoneに搭載されている「Siri」といった対話型の音声認識技術が飛躍的に発展している。
野村総合研究所(NRI)は、スマートデバイスに搭載されている各種センサや「Kinect」「Siri」的なものの応用範囲は、当初の単一デバイスや単一拠点(工場内など)から、複数の拠点間(企業グループ全体など)や都市レベル(スマートコミュニティなど)へと広がっていくものと予測している。こうなれば、得られるデータはもはやモバイルインターネットの比ではなくなるほど膨大になり、DCMへの応用もより一段と活発化するものとみられる。
M2Mデータの活用範囲のイメージ