電力使用量が急増する真夏に向けて、ITを活用した節電ソリューションが注目を浴びている。「節電ソリューション」は、電力供給不足や電気料金の値上げが世を賑わせているいま、企業の規模を問わず、需要が高まりつつある。自社ビルを保有しているかどうかによって節電対策の方法は変わるが、単に「機器の電源をオフにする」だけでなく、生産性を維持しながら節電を図る能力の有無が節電ソリューションに問われている。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「実現しやすさ」を読む
消費電力が小さいインクジェットプリンタが有望に
オフィスでは、一般に空調と照明が最も多くの電力を消費し、その次に、パソコンやサーバーなどのIT機器が電力消費の大きな割合を占める。したがって、節電を図るためには、ITを活用して空調や照明の電力消費を抑えるだけではなく、IT機器そのものに対しても節電対策が必要となる。とくに、賃借ビルで空調管理システムなどを導入できない中堅・中小規模のユーザー企業にとって、既存のIT機器を省エネにすぐれた最新モデルに置き換えることが、生産性を損なわない節電への近道となる。もう一つ、節電の対象となるのが、プリンタだ。プリンタは、消費電力が高いレーザープリンタが広く普及しているが、節電のニーズが高まっているなかで、レーザープリンタと比べて消費電力を約8割も抑える小型のインクジェットプリンタが有望なIT商材となるだろう。IDC Japanは、節電ニーズなどにけん引されて、国内のインクジェットプリンタ/MFP(コピーやスキャン機能を一体化した複合機)市場は伸びる傾向にあるとみている。
国内インクジェットプリンタ/MFP市場の構成と成長率の推移
figure 2 「SMBの現場」を読む
節電の一環としてDCやクラウドの利用を図る
IT活用による節電ソリューションといえば、確かに効果が期待できそうだが、予算や専門人材などのリソースが限られている多くの中堅・中小企業(SMB)にとって、導入のハードルはかなり高い。とはいえ、電力供給事情の緩和やコスト削減のためにも、SMBにとって節電は必須。では、SMBの現場で、どのような節電対策が講じられているのか。SMB市場の調査を得意とするノークリサーチは、今年2~3月、年商500億円未満の民間企業1000社の経営層に、自社の節電対策についてたずねた。その結果、IT機器の入れ替えやIT機器の設定/運用ルールの見直しに取り組むほか、社内のITシステムをデータセンター(DC)に移行しているSMBが比較的多いことがわかった。また、今後の実施予定に関しては、14.7%のSMBが従来型のアプリケーションをSaaSやクラウドへ切り替えることを検討していることが明らかになった。節電を機に、IT資源を自社の電力を消費しない「クラウド」にアウトソーシングする動きが加速化するとみられる。
中堅・中小企業の節電対策
figure 3 「ビル管理」を読む
伸びるBAS市場、低価格化が必須
自社ビルや大型施設を保有する大企業にとって有効な節電ツールとなるのは、空調機器や電力機器、照明機器の管理を自動化する「BAS(ビルディングオートメーションシステム)」の導入だ。BASは、設備機器の管理や制御を効率化することによって、エネルギー使用量の削減を図ることができる。調査会社の矢野経済研究所によると、国内のBAS市場は、2011年度にビル建築市場の不況の影響を受けていったん縮小したが、東日本大震災以降の節電ニーズを追い風に、2012年度からはプラス成長に転じるという。昨今のBASソリューションは、ビルのエネルギー設備を統合的に監視して自動制御し、省エネ化を実現する「BEMS(ビル管理システム)」機能が充実しており、節電・コスト削減ともに実現することができる商材として有望視されている。しかし、矢野経済研究所は、BASについてはオープン化が進み、マルチベンダー化によって価格競争が激しくなっており、今後は低価格化に拍車がかかるとみている。2015年までに、システム導入の件数は着実に伸びるものの、金額ベースではほぼ横ばいで推移するという見方だ。そんな状況にあって、ITベンダーは収益性を高めるために、BASに付加価値をつけたかたちで展開することが、これまで以上に重要になってくるとみられる。
国内BAS市場の推移
figure 4 「国の支援」を読む
300億円の予算でBEMSの普及をサポート
経済産業省は、節電やIT市場の活性化を目指し、300億円の予算を計上して、BEMSのシステム構築を手がける事業者を支援している。経産省は、「1000件以上の中小ビルを対象に、エネルギー管理システム(BEMS)を導入するとともに、クラウドによる集中管理システムを構築してエネルギー管理支援サービスを行う」ことを条件とし、このほど、21のコンソーシアムを支援対象として採択した。各コンソーシアムは数社のメンバーから構成され、幹事会社が指揮を執るかたちで、共同で案件の獲得に取り組む。経産省に採択された事業者は、電力や都市開発、ビル管理など、数多くの分野をカバーしている。ITベンダーで幹事会社として選ばれたのは、NTTデータグループのシステムインテグレータ(SIer)であるNTTデータカスタマサービスをはじめ、日本ユニシス、日本IBM、富士通、日立製作所、三井情報の6社である。NEC(本体とNECネクサソリューションズなどグループ会社)は、メンバーとして日本IBMが幹事会社となっているコンソーシアムに入っている。各コンソーシアムは今後、省エネ機器や蓄電池の導入サポートに加え、節電に関するコンサルティングやセキュリティの提供も含め、電力会社と連携しながら、BEMSサービスを包括的に展開する。
コンソーシアムに採択されたITベンダー