BYOD(Bring Your Own Device)は、社員が個人で所有する情報端末を社内システムに接続して業務に活用するという、デバイスの新しい利用形態。スマートフォンやタブレットの普及とともに注目を浴びている。BYODの広がりは、情報漏えいを防ぐ端末管理ツールや、スマートデバイスの特性を生かすユニファイドコミュニケーションなど、関連するIT市場を活性化させている。話題のBYOD、その関連市場を俯瞰する。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「端末の普及度」を読む
スマートデバイスの普及がBYODを活性化
BYODとは、個人所有のデバイスを業務に活用すること。ノートパソコンや携帯電話など、個人のモバイルデバイスを仕事で使うことは、一部の人が以前から行っていた。しかし今、スマートフォンやタブレットなどの「スマートデバイス」が普及した影響で、BYODが本格化してきている。スマートデバイスは、外出先でも簡単にインターネット閲覧ができ、プレゼンテーション用として活用するのに最適なツールだ。調査会社のIDC Japanは、2016年のスマートデバイスの出荷台数は約5600万台に上ると予測している。企業がBYODを認めても認めなくても、スマートデバイスが普及すればするほど、BYODのワークスタイルは広がる。米国と比べると、日本はまだBYODは広がってはいないが、トレンドは止めることができないのが現実だ。ユーザー企業は、BYODによる機密情報の漏えいなどを防ぐために、個人端末の業務利用にあたってのルールやポリシーを整備し、対応するITツールを導入する必要に迫られている。
国内モバイルデバイス出荷台数の推移
figure 2 「実態」を読む
普及は確実だがルールを決めた企業は少ない
BYODが注目を集めているといっても、実際、どのくらいの社員が個人端末をビジネスに活用しているのかが知りたいところだ。スマートデバイスのBYODは、情報漏えいを防ぐセキュリティツールの需要を喚起する。よって、とくにセキュリティメーカーは、BYODの実態を把握することに力を入れている。トレンドマイクロは、今年6月、約1500人の社員や経営者を対象に、スマートフォンとタブレットのBYODに関する調査を行った。その結果、BYOD経験者は全体で53.1%と半分以上を占めていた。さらに詳しくみていくと、BYODを許可している企業では72.7%、ポリシーがない企業では62.7%、禁止している企業では54.8%の社員がBYODの経験がある。さらに、経験者全体の21.6%が個人端末を「ほぼ毎日」業務に使っている。また、BYODが確実に普及している一方、31.2%の企業がBYODのポリシーやルールを決めていないことが明らかになり、利用実態に対して管理が追いついていないことがわかった。
BYODの実態
figure 3 「デバイス管理」を読む
国内MDM/モバイルセキュリティ市場はほぼ10倍に
現在、BYOD関連で需要が最も高まっている製品は、端末を一括管理することができるモバイルデバイスマネジメント(MDM)ツールだ。MDM製品は、これまで会社支給のモバイル端末を一元管理するために使われてきたが、これを個人端末にも利用しようとする動きが需要を押し上げている。多くのMDMベンダーは、例えば、一台のデバイスに入っている個人用データとビジネス用データを分けて、それぞれを適切に保護する機能を追加するなど、BYODに対応した製品を投入している。
IDC Japanは、国内のMDM/モバイルセキュリティ市場のユーザー支出額が、2011年の26億1700万円から2016年には208億8500万円になると予測。ほぼ10倍の成長だ。なかでも、とくにMDMサービスが大きなウェートを占める。また、シマンテックなどセキュリティベンダーがBYODプラットフォームを開発するなど、近々、BYOD専用製品の普及も見込まれる。前述のトレンドマイクロの実態調査でわかったように、現時点ではまだ、BYODのポリシーを決めていない企業が多いことから、MDMをはじめとするBYOD管理ツールは市場開拓のポテンシャルが大きく、ITベンダーにとって有望な商材だ。
国内モバイルデバイス管理/モバイルセキュリティ市場の推移
figure 4 「UC」を読む
BYODの延長線上にあるUCの導入
BYODは、管理ツールの需要を刺激するだけではなく、電話やメール、ビデオ会議など、あらゆる手段を統合して社内外とコミュニケーションする「ユニファイドコミュニケーション(UC)」の普及の追い風になる可能性がある。UCは、東日本大震災以降、企業の経営者がBCP(事業継続計画)対策としてUCの重要性を認識し始めたものの、本格的な普及には至っていない。シスコシステムズをはじめとするUCの有力ベンダーは、最近、スマートフォンやタブレットをUCソリューションに採用し、スマートデバイスを生かしたUCの活用方法を訴求している。
UCの環境下では、スマートデバイスを使って自宅からオフィスとビデオ会議を開くなど、場所を問わず、どこにいても同僚や取引先とコミュニケーションすることができる。「仕事」と「プライベート」を明確に分けずに、両者の融合を目指すというBYODと同じような考え方にもとづいている。今後、BYODが広く普及し、企業では「仕事」と「プライベート」をはっきりと分けない考えが根づけば、その延長線として、UCを導入する企業も増えると考えられる。IDC Japanは、BYODを一つのカンフル剤として、国内UC/コラボレーション市場は2016年に2192億2400万円に拡大すると予測している。
国内ユニファイドコミュニケーション/コラボレーション市場の推移