スマートフォンやタブレットを中心とするモバイル端末の普及によって、ビジネス用アプリケーションの商流が大きく変わろうとしている。

　「スマートフォンは、社員にデバイスマネジメントを自らが行う力を与える」という見解を示すのは、法人市場でモバイル端末の普及に取り組んでいるソフトバンクモバイルで法人モバイルソリューション統括部を率いる多田彰統括部長である。企業のIT管理者が、例えば「Windows Office」などソフトウェアの導入を決定し、それを社員に使わせるというのがパソコン主流の時代だった。

　これに対してスマートフォンは、社員自身がToDo管理やスケジュールなどのビジネス用アプリをダウンロードし、自らの業務に適したアプリを購入・活用することができる。すなわち、企業のIT部門ではなく、社員が「個人」としてソフトウェアを選んで手に入れるわけだ。最近は、個人所有の端末を社内システムに接続して業務に使う「BYOD（Bring Your Own Device）」が話題を集めているが、近々、デバイスだけではなく、業務用ソフトも社員が自ら入手する時代が到来するだろう。多田統括部長が言う「デバイスマネジメントの力」は、IT購入の主体がIT管理者から社員個人にシフトする動きにつれて高まってくることを意味している。

　社員自身がアプリを購入することは、当然ながら、ビジネス用アプリの販売手法に大きな影響を与えることになる。これまでは、ITベンダーの営業部隊がユーザー企業のIT担当者を訪問し、アプリを提案し、販売するやり方がメインだった。今後は、社員がアプリを探し、直接にはベンダーに関わらず、ウェブからダウンロードするかたちで購入する方法が、新しい商流をかたちづくりそうだ。ソフトバンクモバイルはこの動きに呼応している。ユーザー（社員）がアプリを自由に選ぶことができるプラットフォームとして、複数のベンダーの製品を集めて販売する「モバイルソリューションマーケット」を開設し、現在、約40のアプリを揃えている。これをさらに拡充していくという。

　ソフトバンクモバイルのこうした取り組みをみると、ビジネス用アプリについて、モバイル通信キャリアが「アプリの開発者」ではなく、「アプリの売り手」になって新たな商機をつかむという狙いを読み取ることができる。法人市場でスマートフォンの普及率は、3～5年以内に50％を超えることが見込まれている。ソフトバンクモバイルの多田統括部長は、「今後、NTTドコモもアプリの販売を柱とするビジネスモデルを採用すれば、市場がさらに活性化する」と、ライバルへの“期待”を表す。

　ソフトバンクモバイルをはじめとする通信キャリアは、モバイルの普及を原動力として、事業形態のサービス化を本格化しようとしている。（ゼンフ ミシャ）