今や世界経済をけん引する中国。その巨大市場に向けて、日本のITベンダーの中国進出が加速している。ただ、実際に中国でのビジネスに成功しているITベンダーや企業はそれほど多くはない。経営判断として中国進出を決定したものの、ビジネスが形になる前に失敗するケースすらある。では、どうすれば中国の市場で事業を成功に導くことができるのか──。
自らが中国市場を切り開き、eラーニング事業を立ち上げた経験をもち、中国事情に精通するWEICの内山雄輝社長に、その極意を4回にわたって披露していただく。(構成/本紙編集長 谷畑良胤)
中国進出を目指した日本企業の多くは苦戦を強いられている。最大の原因は、中国を知らないまま、ろくな準備もせずに、安易に進出しているからだ。
ひと括りに中国といっても、国土は広大で、沿岸部と内陸部では状況はまるで異なる。人口13億人超と日本の10倍以上に達し、経済環境も混沌としている。それに、日本と比べて発展の度合いやビジネスのスピード感が違う。
2009年頃までの中国については、安い人件費目当ての「オフショア開発」を委託する場所と考えるITベンダーがほとんどだった。しかし、今は日本のITベンダーの多くが、「オフショア開発」だけでなく、IT産業の巨大市場と捉えて進出している。だが、多くの日本企業は、2~3年前の調査会社のレポートを鵜呑みにし、国内のビジネスと同じ感覚で知ったつもりになっている。その感覚で中国戦略を立てても、失敗するのは火を見るよりも明らかだ。
これだけ経済発展のテンポが急速でビジネスのスピードが速く、国土も広大な市場で成果を上げるにはどうすればいいのだろうか。結論を先にいえば、“これが絶対”といえるセオリーはない。個々の企業が自分なりのセオリーをつくるしかないのだ。
とはいえ、中国進出を目指すうえで、これだけは押さえておかなければならないという“定石”がある。それについて順を追って説明したい。
信頼できる弁護士の確保が不可欠 中国=力がものを言う法治国家
中国でのビジネスにおいて最も重要なのは、第一ステップとして法務対策に手を打っておくことだ。現地法人を設立する前段階から、中国で自社製品のコピーなどを防ぐための知的財産権の保護や、現地のローカルパートナーとの合弁に関する契約など、あらゆる場面で法務が重要な役割を果たすので、絶対におろそかにしてはいけない。
日本の企業は、中国に限らず海外展開する際の法律関係は、ほとんどの場合、日本で委託契約している顧問弁護士に委ねている。中国への進出に関しては、その顧問弁護士のつき合いのある現地の弁護士事務所を使うケースが多数を占める。
法律面のトラブル防止策に触れる前に指摘しておきたいのは、合弁や提携などの交渉事やトラブルが生じた際などには、中国人は自社が勝つためにあらゆる手段を用いてくるということだ。
中国は法治国家だが、力のあるものが勝つ法治国家である。企業によって、法律の解釈は曖昧なところがある。万が一、トラブルになれば、どれだけ力のある弁護士を抱えているかが勝敗を決める。不備のない契約書をいかに“中国式”の商慣習にもとづいて備えるかが重要になる。ただし、力のある弁護士は委託費用が高額になることを覚悟しておかなければならない。報酬の支出を躊躇したことで、弁護士のモチベーションを下げてしまい、中国内での裁判に負けるケースは多々ある。
日本企業の立場を理解して適切に対応してくれて、しかも力のある弁護士事務所となると限られる。それでもここをクリアしない限り、中国でのビジネスに成功はあり得ないと胆に銘じてほしい。
合弁時の契約書に注意を払うこと 過半出資でも安心するなかれ
中国でのビジネスのトラブルでよく耳にするのが、中国企業との合弁事業だ。合弁会社を設立すれば、生産や技術開発、マーケティング、営業、物流を効率化することができ、市場開拓や現地の商慣習に合わせた体制をいち早く整備できる──。そう判断するのは早合点だ。
ITベンダーであるなら、通信インフラやデータセンター(DC)などの規制分野をはじめ、中央・地方政府や有力ユーザーとなる国営企業とのコネクションも不可欠。その意味でも、地場の有力パートナーとの連携は欠かせないが、ここは慎重に行う必要がある。
中国企業と合弁するにあたって、日本企業は、出資比率51%以上を確保すれば、自らが主導権を握ることができると考えがちだ。だが、それだけでは、後で痛い目に遭う。こちら側で決定権を行使できるかどうか、契約書の内容を細部まできちんと詰めるべきだ。
合弁事業でよくあるのが、現地の事情に明るい中国側が会社設立の準備を引き受け、契約書まで作成してしまうケースだ。日本側は、資本金の過半数を押さえたことで安心してしまうが、契約書はすべて中国語で記述されていて、大抵の場合、「何事も日中双方の合意により決定する」と記されている。一見問題なさそうだが、言い換えれば、中国側が合意しなければ合弁会社の役員の数も人事権も握れない場合があるということだ。こんな契約内容で、後になって頭を悩ます日本企業は非常に多い。
“初手”でつまずかないためにも、日本側の立場を理解してくれる弁護士に依頼し、事業の将来まで見据えた契約書を作成しておかなければならない。
【Profile】WEIC 内山雄輝社長
1981年、愛知県名古屋市生まれ、31歳。2004年3月、早稲田大学第一文学部中国語・中国文学専修卒業後、WEICを設立。人間が言葉を覚える過程の言語学理論をシステム化し、中国語をはじめとするeラーニングサービスを日中両国で展開。中国でのビジネス経験と人脈を生かし、日本企業の中国進出を支援。地方政府および現地企業との戦略提携やグローバル人材育成戦略の豊富なノウハウに定評がある。夫人は中国人で、数多くの日本企業の中国法務を代弁する著名な弁護士を父にもつ。MIJSでは「海外展開委員会」の委員長を務め、中国やASEAN進出に関する現地との折衝などを担当している。