世界で成功する──。自社の技術力や開発力に絶対の自信をもった「本気」の同志が集まり、日本だけにとどまらないビジネスを目指す場、それが「Made In Japan Software Consortium(MIJSコンソーシアム)」だ。MIJSコンソーシアムでは、世界市場、とくに急成長を遂げる中国市場をどう捉えているのか。主力加盟企業に、海外に進出するうえで、MIJSコンソーシアムに加盟していたからこそのメリット、また中国での取り組みについて聞いた。(司会進行/文●佐相彰彦)
加盟企業の連携や共同マーケティングで海外へ
──まずは、昨年を振り返って、国内ビジネスの実績を教えてください。
美濃(エイジア) おかげさまで、当社のCRMシステム「WEB CAS」は、メールマーケティング分野のパッケージ製品でNo.1のシェアを獲得しています。メールマーケティングは、500億~600億円の市場規模といわれており、年間成長率5%の市場でもあります。そのなかで当社も堅調に推移しました。
内野(ウイングアーク テクノロジーズ) 昨年は、「まあまあ」といったところで、業績は順調に伸びております。
常盤木(インフォテリア) 当社の「ASTERIA」は、国内データ連携ソフト市場でシェア46.9%を獲得し、6年連続でNo.1を維持しています。また昨年は、スマートデバイス向け社内情報配信サービス「Handbook」で、中国・東軟集団(Neusoftグループ)の大連東軟教育服務と7月にパートナー契約を結ぶなど、非常に有意義な年でした。
飯島(クオリティ) 当社主力のIT資産管理ソフトは、オンプレミス型からクラウド型に移行していることを実感しています。当社のIT資産管理機能のクラウドサービス「ISM CloudOne」は、昨年末の時点で累計1万7000社を超えました。ただ、まだまだオンプレミス型のニーズもありますので、クラウドサービスの分だけビジネス領域が広がったと実感しています。
大槻(クオリティソフト) 現在、円高などによって海外に進出する企業が増えています。そういった企業は海外拠点のIT統制管理を求めており、誰でも管理できる環境整備を進めようとしています。クラウドサービスが伸びているのは、当社の製品を評価してくださっているからと自負しています。
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クオリティソフト 取締役営業本部副本部長 東日本担当 大槻茂 氏 |
──改めておたずねしますが、MIJSコンソーシアムに加盟したきっかけは何ですか。
内野 MIJS設立のきっかけをいえば、ソフトメーカーが「本気」で集まる機会がなかったからです。志の高いソフトメーカーの人たちが、普通は出さない情報を出し合って、「本気」で連携したり、日本のIT業界を活性化したり、ゆくゆくはIT業界の構造自体を変えたいという目的でMIJSを設立しました。今では、加盟企業が64社に達しています。毎年、MIJSの志に賛同してくれる人が増えている状況です。
常盤木 当社社長の平野(洋一郎)は、世界で使えるソフトを提供していくという志をもっています。当社はMIJSの志が合致しているという理由で加盟しました。また、マーケテンィグや製品のあり方、顧客の意見を吸い上げることによって最適な製品を提供することや、最適な製品を世界に発信していくという考えに賛同しています。
飯島 私は最近まで中国事業に携わっていたのですが、MIJSを通じて中国市場での共同プロモーションなどを実施してきました。これが、加盟している大きなメリットです。
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クオリティ 常務取締役 飯島邦夫 氏 |
美濃 国産ソフトのレベルを引き上げるという共通の志をもって世界を目指し、ある時はライバルとして、ある時は仲間として、いつも強い刺激を受けています。もし加盟していなかったら、今の当社はなかった。中国でもビジネスに着手していますが、現地でパートナーを見つけることができたのもMIJSのおかげです。
常盤木 MIJSでは、相互製品勉強会という会合を開いています。当社の立ち位置を含めて、製品を説明するという機会です。単に説明するのではなく、ビジネスモデルの裏側も隠さずに伝える。これによって協業案件も見出そうとする。まるで“ノーガードでの打ち合い”です。それができるのがMIJSの魅力です。
──お互いの利益を見出せるのがMIJSに加盟するメリットというわけですが、一方、加盟企業が増えると競合する場面も出てくるのでは……。
内野 それは意識していません。設立当初、少し危惧したこともありましたが、加盟企業すべてが、お互いの真意を理解しています。これは、私個人の見方と受け取ってほしいのですが、日本のソフトメーカーは非常にレベルが低い。今の目線で競合してもまったく意味がない。自分のレベルを上げるためには、周りもレベルアップしなければならない。それが、MIJSの存在意義です。
美濃 確かに海外で成功しているソフトベンダーは少ないですね。お互いを強くしていかなければならないと思います。
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エイジア 代表取締役 美濃和男 氏 |
飯島 海外に目を向けると、外国ベンダー製の製品で埋め尽くされています。そういう状況に対抗するために、時には連携したり、時には共同マーケティングを実施したり、そういった強みがMIJSにはあります。
常盤木 当社の平野(社長)は、MIJSに対してフルコミットしています。こんなに各加盟企業の社長が信念を貫いて本気で取り組む団体を私は知りません。若い世代も頑張らなければならないと実感しています。
読めない市場だがチャンスはある
──先ほどから「世界を目指す」というキーワードが出ていますが、海外での取り組みについて聞かせてください。
常盤木 最初に申し上げたように、、昨年7月に中国市場でビジネスを拡大するうえでトップクラスの提携を実現しました。大連東軟教育服務は、中国の教育機関に強い。教育機関に「Handbook」が浸透すれば、企業にも広がると確信しています。また、「ASTERIA」のクラウドサービスで北米のビジネス拡大も見据えていますし、経営資源を投入し続けています。
飯島 クオリティソフト上海を02年に設立して03年に営業を開始しました。IT資産管理ソフト「QAW・QND Plus」の中国語版を販売したのが06年です。私は、08年7月に中国へ赴任し、8月には「QAW・QND Plus」の国際(日中英)版を中国で発売しました。この時期は、リーマン・ショックで世界中が厳しい状況だったということもありましたが、中国で感じたのは、日本とは売り方がまったく違うという点です。IT資産管理ソフトの特性でもあるセキュリティというキーワードが相手にまったく響かない。そこで、販売戦略を変えました。中国では、従業員がまじめに仕事をしないと思っている経営者が多いので、いかに仕事に集中させるかに焦点をあてて、仕事中にPCで遊べないようなソリューションを提案したんです。結果、当社の製品を導入してくれることになりました。また、ソフトを購入する文化ではないことも中国でのビジネスを難しくさせています。
美濃 当社も最近、中国に進出しましたが、着手したばかりですので、まだまだこれからです。当社の製品を通信事業者のチャイナテレコムが売ってくれるようになったのですが、現段階では、保守の仕方をレクチャーしている段階です。ファーストユーザーをしっかりと確保することに力を注いでいます。
内野 当社の帳票基盤ソフト「Super Visual Formade(SVF)」などは、日本で大企業のデファクトになっていますので、顧客が海外進出する際に国際対応化したのがきっかけで海外ビジネスを手がけるようになりました。海外でのビジネスを拡大するために、マーケットを拡大できる可能性があると判断して中国を選び、09年6月に現地法人として文雅科信息技術(上海)有限公司を立ち上げました。10年夏には、中国での販売を本格化したのですが、目標にはまだまだ達していません。現在、2社の販売パートナーがいるのですが、トップを獲るつもりなので、これもまだまだです。ただ、中国企業に適合できるということは確信しています。
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ウイングアーク テクノロジーズ 代表取締役社長 内野弘幸 氏 |
──中国市場をどう捉えていますか。
内野 マーケットがどれくらい伸びるかは、正直、わかりません。ただ、中国のIT環境がどうなるかについて仮説を立てています。業務系のシステム化で、日本と根本的に違うのは、オフコンや汎用機を導入していないということです。一足飛びにIT化が進む。そういった意味では、ソフトメーカーにチャンスが十分ある。問題は、中国にとって外資系にあたるわれわれが、いかに活躍できるか。どのような成功モデルがつくれるかがポイントになります。それには、現地企業とのパートナーシップを含めて、いくつか検討しなければなりません。
飯島 欧州危機に直面する世界経済のなかでは、中国は内需が底固いのではないでしょうか。リーマン・ショックの時、当社は現地の住宅業界などにアプローチすることで業績を回復しました。また、日系企業を中心に攻めるのもいいかもしれません。
大槻 確かに、中国に工場などをもつ日本企業から、中国の拠点を一括して管理できるツールはないかとの要望が出ています。どれだけ伸びるかは読めませんが、需要はあるということだけはいえます。
常盤木 中国ではSI(システムインテグレーション)が拡大している。そういった点では、自社のコア技術を生かして、信頼のおける現地企業と手を結んで、「グローバルスタンダード」をアピールするのも中国で案件を獲得するカギなのではないでしょうか。
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インフォテリア プロダクトマネージメント部 シニアプロダクトマネージャー エバンジェリスト 常盤木龍治 氏 |
美濃 中国は未知の世界ですが、当社のビジネス領域が拡大する可能性は非常に高い。eコマースを例に挙げると、市場規模が8兆5000億円に達し、これが今年には12兆円規模になるともいわれています。インターネットがさらに普及することを考えると、昨年よりも今年、今年よりも来年と伸びていくことに期待しています。