国産パッケージの多くは、欧米発の製品を真似たもの。IT用語にERPなど三文字英語が目立つのはそのためだ。さいたま市で独創的なパッケージ開発を手がけるシステムインテグレータ社長の梅田弘之は、真似からの脱却が中小ISV(独立系ソフトウェアベンダー)の生き残る道と信じている。(取材・文/谷畑良胤)
梅田は、社内の開発者を対象にしたコンテストをしばしば開く。「新しい製品のアイデアを出してみろ」というわけだ。ところが、梅田の期待に反して、出てくるものは「見たことあるコンセプトばかり」。すかさず檄を飛ばす。「よその真似をしていたら、うちのような会社は生き残れない」。
統合基幹業務システム(ERP)や顧客情報管理(CRM)、グループウェア──。数え上げれば切りがない。すべては米国発のコンセプトだ。あるいは業種業態に応じたシステムや業務効率化のパッケージなども、元をたどれば米国に行き着く。国内ISVはそのコンセプトを応用しているにすぎない。日本国内ですらシェアを占有できないパッケージは、同類製品と区別がつかない。
この繰り返しをしている限り、例えばクラウド・サービスを生み出しても、元の木阿弥だ。梅田は自らをこう戒める。「参入障壁が低い製品を開発しても意味がない」。
インターネット勃興期。同社が切り開いたEC(電子商取引)サイト構築パッケージ「SI Web Shopping」は、世の耳目を集めた。14年間で1000サイトの実績を誇り、中国をはじめ海外にも市場が広がる。最近同社は、社是を変更して、会社のロゴも変えた。「時間を奪うのではなく、時間を与えるソフトを創り続ける」。2006年12月にマザーズへ株式情報を果たしたのも、これを貫いてきたからだ。
1996年9月に創業したメール配信とCRMに特化したASP・SaaSサービスを展開するトライコーン。メール配信など、業務内容は特殊なものではないが、創業以来、増収増益を続けており、中国にも進出している成長ITベンチャーだ。最近は、クラウド関連のイベントで、同社社長の花戸俊介の出番が増えた。
花戸は、アパレル大手で企画・卸売などをしていた。得意先に電話を入れて訪問し、店頭に並べてもらう交渉が彼の仕事だった。だが、「発注が決まるまでに時間がかかり過ぎる」。業務フローが煩雑だというわけだ。その時、創業時からASP・SaaSに着眼していたトライコーンの存在を知り、「自分でやってしまえ」と入社。IT業界に入った。花戸は、好調な業績を上げているのに、謙虚だ。「毎日、一生懸命、ベダルを漕いできただけ」。
同社のCRM「KREISEL」には、「カンタンCRMシステム」というキャッチフレーズがついている。とにかく「カンタン利用」にこだわった。とはいえ、どのCRMベンダーも同じコンセプトを練っているはずだ。どこが違うのか。
花戸の表情はいつも自信に満ちている。半面、口調からは自慢の言葉がまったく聞かれない。「大きいシステムを入れるのは、一大事」。アパレル会社での苦労で実感した。だからこそ、ASP・SaaSで導入障壁を下げ続ける努力をする。「3か月に一度、全社で目標を立てている」。半年や年間で予算や実行計画を消化するのが普通。花戸は「世界を見渡せば、IT業界の動きは速い。3か月でも短いくらいだ」。自社システムの「SalesForce」搭載のSNS機能「Chatter」で、日々現場で得た要望を汲み上げ、3か月の計画達成を狙う。(つづく)
クラウド・SaaS関連のイベントに登壇する機会が増えたトライコーンの花戸俊介社長(写真左、バリオセキュア・ネットワークスが東京の目黒雅叙園で開催したイベントで)