メール配信システムをASP/SaaS型で提供するトライコーンは、3か月に一度、必ずキックオフミーティングを開く。全社員が揃う全体会議も頻繁に行う。「日々、達成できることを練り上げる」。すでに他社を凌駕する独自性の高いサービスはある。それでも社長の花戸俊介は、1日たりとも無駄にしない。(取材・文/谷畑良胤)
取材したのは9月末。数日前、トライコーンでは、すでに10月から3か月間の事業計画を作成済みだ。この前四半期中の9月21日、米アップルから「iPhone 5」の発売日が発表された。「新しい商材が出る」。自社サービスとの相性を早く試してみたい。花戸の表情には、焦りとワクワク感が同居する。
社内の情報共有は、もっぱら自社システムの「SalesForce」搭載のSNS機能「Chatter」を利用する。「発言は自由。小さなことでもつぶやいて」。通勤時間や休憩時間、休日でも、アイデアや意見を受け付ける。ビッグデータ時代になる。1秒間にどれだけ処理できるのか──。そんな話題で情報交換するなかで、革新が生まれる。花戸はそう信じている。
花戸には、いくつかのこだわりがある。「常に顧客が問い合わせてくれるベンダーになる」。これは「顧客の問題解決」を追求するサービスを出し続けて顧客満足を得て、IT業界からも注目され続けることを意味する。さらにいえば、自前主義にはこだわってはいない。自社インフラだけでは限界がある。内資・外資を問わず組む度量の大きさがある。「当社のメール配信システムなどを、社会インフラとして位置づけたい」。
現在、花戸はセールスフォース・ドットコムのSalesforce上で動作するサービスベンダーの集まりである「NPO法人アップエクスチェンジコンソーシアム」で要職を務める。トライコーン自身も、同社メール配信機能をSalesforceの管理者画面から簡単に利用できる連動型メール配信アプリケーション「Autobahn for AppExchange」を提供している。強いサービス基盤との連動を強化中だ。
連載第2回で既報の1stホールディングスも、セールスフォース・ドットコムの資金を得てSalesforceとの連携を深くした。基本スタンスはトライコーンと同じだ。だが、バリオ・セキュアネットワークスを買収し、自らもSalesforceと違わぬPaaS基盤を手にした。

10月初旬にサンフランシスコで開催した「Oracle Open World」で、ラリー・エリソンCEOがIaaSを発表。クラウドのサービス基盤がまた一つ増えた
記者は1stホールディングス社長の内野弘幸に問いかけた。「セールスフォースとの連携は、ワン・オブ・ゼムですね」。すると内野は「そうだ」と、Salesforce以外のPaaSとの連携も模索していることを匂わす。
Google、Amazon、そしてSalesforce──。米オラクルなどもここに参入する。独立系ソフトウェアベンダー(ISV)は、自前主義にこだわらず、これらの基盤を使って広範に販売できるようになった。ワークフロー製品のNTTデータイントラマートは、10月に新基盤「intra-mart Accel Platform」を発売した。JavaEEフレームワークをベースにワークフローやポータル、モバイルなど業務システムのウェブアプリケーションを簡単に構築できるシステム基盤だ。
社長の中山義人は言う。「当社はNTTデータ出身のベンダーだが、ISVだ。常に革新を追求する」。「オンプレミス(企業内)のシステムも、クラウドやスマートデバイスにも、このシステム基盤で簡単につながる」。もちろん、Salesforceとも連携する。
もはや、ISVが自前でサービスを提供するやり方は付加価値を生まなくなりつつある。クラウド上で企業内データが行き来する。どことどう手を組むのか。そこを考えるマーケティング力が問われている。(つづく)