主要SIerが成長分野への投資を加速している。野村総合研究所(NRI)の嶋本正社長は「クラウドやグローバルといった有望分野は2ケタ成長する見込み」と判断して、この分野に経営資源を重点的に投入していく。ITホールディングス(ITHD)も関西地区でのデータセンター(DC)基盤を大幅に拡充するなど、サービス型ビジネスへのシフトを急ぐ。こうした動きの背景には、成長分野と引き替えに従来型のシステム開発市場の縮小が続くとともに、欧州経済の不調や中国リスクなどの不確定要因によって、リーマン・ショックのような落ち込みが再び起こる可能性が否定できないことがあるとみられる。(安藤章司)
国内情報サービス市場は、向こう3年は年率1~2%の緩やかな回復基調が続くと見込まれている。ある大手SIer幹部は、「緩やかな回復基調にある現状だからこそ、積極的な設備投資を行い、リセッションのフェーズに入っても成長し続けられる基盤づくりを行う」と、先行投資に意欲を示す。図は、調査会社のIDC Japanがリーマン・ショックの景気後退が表面化してから半年ほど遅れて本格的に業績への悪影響が出てきた2009年度(10年3月期)の主要ITベンダーのITサービスセグメントの売上高を示したものだ。景気変動に左右されにくいITアウトソーシングの比率が高いベンダーは、ITサービスの売上高の落ち込みが少ないという傾向が読み取れる。
ITアウトソーシングはデータセンター(DC)を活用したクラウド型サービスなども含まれており、毎月安定して売り上げが見込める。その一方で、システム構築(SI)や受託ソフト開発は、短期間で大きな売り上げを獲得できる反面、案件が減少局面に入ると急激に売り上げが下がる。リーマン・ショックの直後の情報サービス業界は、ITアウトソーシング比率が高いSIerは比較的冷静に対応できたが、そうではないSIerはSI案件の大幅減に右往左往した苦い記憶が色濃く残る。
2015年以降、情報サービス市場のリセッションが再び始まるとすれば、やはりITアウトソーシング比率が高いほうが有利である。ただでさえ今後は大きな伸びが期待できない国内情報サービス市場にあって、業績の急激な悪化に耐えられるベンダーはそう多くないはずだ。早晩、立ち行かなくなるか、より体力のあるベンダーに吸収合併されるかの選択を迫られかねない。NRIの嶋本社長は、(1)業界標準ビジネスプラットフォームサービス、(2)ユーザー企業の情報サービスの見直し支援、(3)グローバルITサポート──の3点については、「年率2ケタで市場が伸びる」という見方を示した。
NRIは、証券業向け基幹業務システムの共同利用型サービスやネットバンキングサービスなど特定業界に向けたクラウド型のビジネスプラットフォームを拡充する。また、こうした情報システムのあり方が大きく変わるなかで、クラウド対応や東日本大震災の教訓を生かした抜本的なBCP(事業継続計画)対策など、「ユーザー自身の基幹システムに対する課題を解決する提案型ビジネス」(嶋本社長)をグローバル規模で展開することでビジネスを伸ばす。サービス型に軸足を置くことで、不況時の業績へのインパクトを最小限にとどめる構造改革にも積極的に取り組んでいく方針だ。今年11月には200億円規模の巨費を投じておよそ2500ラック相当の最新鋭の大型DC「東京第一データセンター」を開業した。2015年度には関西地区に第3世代DCを新たに開業する準備を進めている。関西地区のDCを巡っては、大手SIerのITホールディングス(ITHD)グループのTISが2013年5月をめどに300ラック規模の拡充を行うとともに、同グループのインテックも、今年10月、関電システムソリューションズと協業して関西地区のDC基盤を大幅に強化した。DC設備はおよそ7割が首都圏に偏在しており、BCP対策上のリスク分散の観点から関西地区での設備投資が増える傾向にある。
成熟度が増す国内市場ではあるが、それでも2ケタ成長が見込める成長分野では依然としてビジネスを伸ばすことが可能だ。向こう3年の緩やかな市場の成長は、SIerにとって収益基盤を強化するまたとない機会になる。残された短い期間を最大限に活用して成長を持続し、リセッションへの耐性が強いクラウドを中心としたサービス型ビジネスへの抜本的な転換が求められている。
表層深層
ITホールディングスの前西規夫副社長の言によれば、「情報サービス業は、ますます先行投資型のビジネスモデルに変わりつつある」ということになる。高価なデータセンター(DC)への先行投資はもちろん、この上で稼働する業種向けのビジネスプラットフォームの開発。さらにそれぞれの業種の複数の主要顧客を自ら開発したビジネスプラットフォームに呼び込んで共同利用型に移行してこそ、価格競争力と収益力を両立できる。
こうしたモデルへの移行は、従来のユーザーごとにアプリケーションソフトをカスタマイズして納品する受託開発型のビジネスが縮小することを意味している。今後、訪れるであろうリセッションの局面では、旧来型ビジネスの縮小度合いが一段と高まることは避けられない。
NRIの嶋本正社長は、2015年度までに「年率7%で売り上げを伸ばす体制をつくる」と、収益モデルの改革と並行したトップラインの拡大に強い意欲を示す。質的な改善に加えて、量的な拡大も同時に成し遂げる仕組みづくりは「今が正念場」と気を引き締める。NRIの今期(2013年3月期)連結売上高は前年度比6%近い成長を見込むまでになってきた。国内情報サービス市場の伸びを大きく上回る成長は、サービス化やグローバル対応を軸として、顧客の情報システムにまつわる課題解決に正面から取り組んできたことの証である。成長分野を取り込むことで、市場全体の景況に左右されずにビジネスを伸ばすことも可能になる。