データセンター(DC)ビジネスは、世界規模でのデジタルデータの増大に後押しされるかたちで堅調に伸びている。2020年には2009年比で44倍近い35ZB(ゼタバイト)規模へデータ量が増えるとみられており、クラウド化の進展とともにデータ処理能力が高いDCへの集約がより一層進む見込みだ。DCビジネスを巡っては、DC事業者と大手SIerとITベンダーとが相互に補完することで、市場の迅速な変化に適応しようとする動きが目立つ。(文/安藤章司)
figure 1 「市場背景」を読む
10年でおよそ44倍に増えるデータ量
データセンター(DC)に対するニーズは、向こう10年は拡大し続けるとみられる。その背景にあるのが、デジタルデータの飛躍的な増大だ。DC事業者のエクイニクスやKVHなどは、2020年までに2009年比でデータ量はグローバル全体で44倍近く、実数では現在の0.8ZB(1ゼタバイト=10億兆バイト)から35ZBに増えるとみている。一般的なオフィスや家庭のIT機器での保存できる分量を超えるのは確実で、その多くが大規模なDCに集約されていく見通しだ。クラウド型のサービスに代表されるように、データはネットワークを通じて企業や個人のサーバーや端末とやりとりされるので、DC本体の設備だけでなく、通信インフラの整備も欠かせない。クラウドサービスは国境を越えて利用される。したがって、国内外の通信ネットワークを確保するとともに、モバイル系の通信への対応も求められる。データ量の増大に占めるモバイル系の伸び率は大きく、2009年と比較してモバイル系データは約39倍に増えるとみられている。
デジタルデータ量増大の予測イメージ
figure 2 「市場規模」を読む
クラウドへのマイグレーションに期待
デジタルデータ量の増大は、DC市場の拡大予測とも一致する。ミック経済研究所の調べでは、2015年度の国内DC市場は2010年度の1.4倍、1兆9000億円に拡大すると見込まれている。仮想化技術やデータ圧縮技術が進展するので、データ増加がそのまま市場の拡大には結びつくわけではないが、2012~2015年のDC市場の平均伸長率は約6.7%と、伸び悩む情報サービス市場のなかでは数少ない成長株である。とりわけ国内では、東日本大震災の教訓から事業継続計画(BCP)や災害復旧(DR)、首都圏一極集中の是正などに向けたDC関連投資が増え、2011年度は特需的に前年度比8.1%増の高い伸びになる見込み。DCへの投資拡大は、サーバー機器はもとより、仮想化などに使う基盤系ミドルウェアソフトから通信機器、国内外を結ぶ通信回線に至るまで、幅広い商材の販売につながる。従来の客先設置型のシステムを、DCを活用したクラウド型のシステムへとマイグレーションさせるSIビジネスの活性化にも期待が高まる。
データセンター市場、消費電力量、延床面積の推移予測
figure 3 「主要プレーヤー」を読む
SIerとDC事業者など複合的な協業が進む
成長市場のDC活用型サービスには、主要ベンダーがこぞって参入している。サービス形態は、伝統的な機器預かり型のハウジングサービスから、徐々にプライベートクラウドやパブリッククラウドへ移行しつつある。プライベートクラウドも、ユーザー企業がIT資産を保有するのではなく、ベンダー側がIT資産を抱えるケースが増えている。ベンダーがある程度の規模のサーバーファームを構築し、区画ごとにユーザーに貸し出す方式だ。ユーザーのIT消費量の増減に合わせて、使用するITリソースを増減させる。IT資産を維持するための経費を“固定費”から“変動費”へと変える取り組みだ。
パブリッククラウドには「規模と価格が勝負」の側面があるが、プライベートクラウドはユーザー企業の細かな要望に応えたり、個別SIやカスタマイズソフトの開発を伴うことが多い。ただし、今後プライベートクラウドでもIT資産を“利用”する形態が増えるとなると、システム構築を本業とするSIerは、DC資産の負担に耐えられない可能性がある。大手SIerは対応できても、中堅・中小では負担しきれないことが想定される。このため、SIerとDC事業者、AmazonをはじめとするPaaS/SaaS系ベンダーとの複合的な協業関係がより進むと予想される。
データセンターを活用したクラウドサービスの主なプレーヤー
figure 4 「売り方」を読む
グローバル規模でエコシステムを構築
規模のメリットが重要視されるクラウドビジネスの急速な進展によって、水平分業の動きが活発化している。たとえ大手コンピュータ系ベンダーや有力SIerでも、必要に応じてDC事業者のリソースを活用する局面が増える見込みだ。例えば、IBMは自らDCを運用するのと並行して、グローバル規模でDCネットワークを展開するエクイニクスの設備を活用している。世界五大陸にクラウド指向DC(CODC)の展開を目指すNECは、中国で大手SIerの東軟集団(Neusoft)のDCを活用するなど、同業者同士の協業も目立つ。
DCサービスの売り方のポイントは、この水平分業にある。クラウド時代は全世界で均質なサービス提供が求められるので、大手でさえ地域に適したパートナーとの協業を選ぶ。見方を変えれば、DCやPaaS/SaaS系の事業者は、営業力がある有力SIerやITベンダーの事業領域に大きく踏み込みさえしなければ、自ずと国内外での緊密なエコシステム(協業関係)の構築が可能になる構図だ。例えば、AmazonはSI的なカスタムサービスをまったく行わず、この部分をSIerやクラウドインテグレータに補ってもらうかたちで販売チャネルを形成。こうした協業モデルがより多くのDC事業者とSIer、ITベンダーとの間にも増えると見込まれる。
データセンター事業者のビジネス上のポジションの一例