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<クラウド特集>サービスを軸に収益モデルを再構築 IT周辺、非IT分野にもクラウドを応用

2012/04/26 19:56

週刊BCN 2012年04月23日vol.1429掲載

 大手SIerがクラウドアーキテクチャをベースとしたビジネスに大きく舵を切っている。データセンター(DC)やシステム構築(SI)、サービス拠点網といったもてる経営資産をフルに動員して、“儲かるクラウドビジネス”への体制づくりに全力で取り組んでいるのだ。ユーザー企業にとってはコスト削減など多くのメリットがあるクラウドサービスだが、システム構築やソフト開発を収益の柱にしてきたSIerにとっては、“諸刃の剣”となる側面が否めない。ユーザーとSIerがともにメリットや収益を享受できるクラウドビジネスを探る。

ワンストップサービスを徹底

 SIerにとって“儲かるクラウドビジネス”のポイントは、本業であるSI能力を発揮しながらも、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)をはじめとするIT周辺の業務領域にどこまで事業を拡大できるかにある。中長期的にみれば、これまで収益の重要な一部分を担っていた受託ソフト開発やハードウェア販売のボリュームは、クラウド移行の比率が高まれば高まるほど、伸び悩む傾向が強まる。一度、クラウドビジネスの方向に舵を切ると、クラウドに置き換えられていくビジネスの収縮を上回る勢いで、クラウド活用型ビジネスを伸ばしていくことを迫られる。

 有力視されるのは、持ち前のSI能力を生かしてクラウド上でシステムを構築するビジネスである。自前で多くのDCリソースをもっていても、Amazon Web Services(AWS)と同類のIaaS/PaaS型のサービスでは、付加価値を生み出しにくい。むしろ、自前のDCリソースとAWSのような外部リソース、さらには客先に設置してあるオンプレミス型システムを連携させる。まずは、こうしたハイブリッド型のクラウドサービスインテグレーションを積極的に伸ばしていくことで、SIerとしての存在感を強めていく施策が有望だろう。

 次のステップとして、ユーザー企業のオフィスや事業所、店舗のIT機器の運用管理サービスなどを貪欲に取り込むことだ。情報システムは、電算室だけで運用が完結するわけではない。製造業なら生産管理に必要なFA(ファクトリーオートメーション)系システム、流通・小売りサービス業ならPOSレジに代表される販売管理システムなど、少なからぬIT機器を現場で運用している。SIerは電算室だけに閉じこもらず、さまざまな機器メーカーやソフトウェアメーカーと連携しつつ、ユーザーの業務のあらゆる領域でワンストップサービスを展開し、顧客からみて常にプライム(元請け)ベンダーであり続けることで、IT周辺の業務領域、ひいては非IT系のアウトソーシングで、新規ビジネスを見出していくことが求められている。


アジア成長国への横展開も視野に

 大手SIerの日立システムズがクラウドビジネスの中核に位置づけるのが「仮想プライベートクラウド」である。顧客が自前でIT資産を所有するプライベートクラウドと、AWSのようなパブリッククラウドの中間に位置するもので、前者の自由度の高さと後者のコストパフォーマンスの利点をあわせもっているのが特徴だ。Microsoftの「Office 365」などのオンラインサービスだけでなく、ISV(ソフト開発ベンダー)のパッケージソフトを日立システムズのDCで預かり、これをSaaS方式でユーザー企業に提供するサービスインテグレーションにも力を入れている。

 同社ではさらに一歩踏み込んで、ITの周辺領域や非IT系の業務領域へビジネスを広げていく方針を示している。この取り組みの一環として、クラウド型CTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)を活用したコンタクトセンター業務の請負や、全国のサービス拠点網を生かしたユーザー企業の事業所や店舗業務のサポートが挙げられる。将来的にはスマートコミュニティといった社会インフラ系の分野への進出も視野に入れている。

 従来のSI中心のビジネスモデルから、クラウドをベースとしたサービス中心のビジネスモデルを確立することができれば、アジア成長市場への横展開もしやすくなる。日立システムズは、すでに中国やASEANでのDC活用型ビジネスを、日立グループやビジネスパートナーと連携して進めているが、サービス型ビジネスモデルを体系立ててパッケージ化することで、グローバル市場での競争力を一段と高めていく。次ページで詳細をレポートする。

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外部リンク

日立システムズ=http://www.hitachi-systems.com/