主要SIerの第3世代データセンター(DC)が活況を呈している。大手SIerで超大型第3世代DCを首都圏で最も早期に開業したITホールディングス(ITHD)グループのTISは、およそ3000ラック相当のうち、開業からわずか1年あまりで半数に受注のめどをつけた。新日鉄ソリューションズも、開業したばかりの1300ラック相当の第3世代DCの3分の1はすでに受注がほぼ確定。今年11月開業予定の野村総合研究所(NRI)の約2500ラック相当のDCも「引き合いが旺盛な状況」(NRIの嵯峨野文彦執行役員)と、手応えを感じている。首都圏における第3世代DCが活況を呈している状況の背景には何があるのかを探った。(安藤章司)
この6月、記者はITHDグループTISの東京・御殿山DCに足を運んだ。通路には重量物の電気設備やサーバーを満載したラックが何度も行き来した跡が残り、至るところにプロジェクトに没頭するSEの姿が見られた。電気設備室に入ると、変圧器などの機材がところ狭しと並び、大きな駆動音に邪魔されて会話もままならない。2011年3月の開業前のがらんどうがまるで嘘のようだ。TISの高村泰生・IT基盤サービス事業推進部主査は、「DC選定で都内のあちこちを下見しているユーザーのなかには、みるみるうちに機材で埋まっていくサーバー室を目の当たりにして(自らが入るスペースがなくなるのではないかと思い)焦る姿を見せる人もいる」と話す。
主要SIerの首都圏における主な第3世代DC一覧

ラック換算で3000ラックは、主要SIerによる第3世代DCのなかでも、頭ひとつ抜けた規模だ。TISの社内でも開業前は「ほんとうに向こう5年で完売できるのか」(TIS関係者)と心配する声が聞かれたが、わずか1年あまりでラック換算で約半数に受注のめどがつき、見通しはいい方向に外れている。今年5月に開業した新日鉄ソリューションズ(NSSOL)の第5DC(三鷹市)のおよそ1300ラックも開業と同時に「約3分の1の受注がほぼ確定」(NSSOLの堀井正敏・データセンター事業部営業グループシニア・マネジャー)と、予想を上回る勢いでビジネスが立ち上がっていると驚きを隠さない。
野村総合研究所(NRI)が今年11月に開業予定の約2500ラック相当の東京第一DCの引き合いも好調に推移しているようだ。第3世代DCを巡っては今年10月に開業予定のキヤノンMJアイティグループホールディングス(キヤノンMJ-ITHD)は、約2300ラック相当の西東京DCの受注に関して慎重な姿勢を崩していないが、それ以外の3社は強気だ。この理由として、東日本大震災後の事業継続計画(BCP)特需などの外部環境の追い風はあるが、むしろ最新鋭の第3世代DCのほうがトータルでみたコストが安く、基幹業務システムのアーキテクチャの見直しに都合がよいということが挙げられる。
ラックあたりの標準電力供給量は第2世代の2倍あまりに相当する6kVA程度に増えており、11月開業予定のNRIの東京第一DCに至っては標準で7.5kVAで設計。電源供給量が増えることでラック当たりのサーバー機器の集積度を高められ、なおかつ仮想化技術を駆使することで「1ラックあたり少なくとも第2世代の3~5倍の処理能力は出せる」(大手SIer幹部)という。高集積化によってラックあたりの処理能力ベースのコストが相対的に下がる計算だ。
ただ、ここまでは外部環境とDCのハードウェア(設備)性能に支えられてきた面が否めない。ここからさらにビジネスを伸ばしていくには、クラウド技術をベースとしたSIer独自のソフトウェアの力量が試される。TISは「TIS Enterprise Ondemand Service(T.E.O.S.)」、NSSOLは「absonne(アブソンヌ)」、NRIは「業界標準ビジネスプラットフォーム」と、いずれも最新鋭のクラウド技術を駆使した独自のプラットフォーム開発に全力を挙げている。T.E.O.S.は中国天津の自社DCで運営するクラウドサービス「飛翔雲」やAmazon Web Services(AWS)と連携したグローバル展開を進め、他ベンダーも同様のグローバル対応やサービス内容の拡充を加速させることで、ビジネスをより一段と伸ばす考えだ。
表層深層
100億円を下らない巨額の投資リスクを負って最新鋭のデータセンター(DC)を建設するSIerにとって、DCの受注状況は最大の関心事である。だが、ただ売れればいいというわけでは決してないところが難しいところ。ハードウェア(設備)勝負であるならばAWSのようなメガクラウドベンダーや、自前でハードウェアを持つメーカー、DCを本業とするホスティング系ベンダーに比べて不利だからだ。
そこで打ち出すのがクラウドベースのシステムプラットフォームであるTISの「T.E.O.S.」やNSSOLの「absonne」、NRIのビジネスモデルの真骨頂ともいえる「業界標準ビジネスプラットフォーム」戦略である。ユーザー企業の業種業務に深く入り込み、世界のすぐれたハード・ソフトを自らのソフトウェアプラットフォーム上に構築。この独自のプラットフォームこそSIerらしさを具現化する“OS”に相当し、ライバル他社との大きな差異化要因となる。
しかし、こうした主力のシステムプラットフォームは、まだ発展途上であり、次世代の基幹業務システムを支えるエンタープライズアーキテクチャ(EA)を先取りできるかどうかは、各社の今後の開発努力にかかっている。主要SIerの第3世代DCの立ち上がりは幸いにもおおむね順風満帆ではあるものの、SIer自らが“本筋”と位置づけるビジネスモデルに持ち込めるかどうかは、まだ予断を許さない状況である。