パッケージソフトウェアは、カスタマイズを避ける、あるいは開発元がモジュール(部品)を提供し、アドオン機能を簡単追加する仕組みにするというのが最近の傾向だ。短納期での導入やカスタマイズした影響で保守・運用段階での作業が煩雑になりがちだが、そうした負担を軽減しようとする動きだ。販売する側も、開発の長期化を避けて手離れをよくしたいはずだ。独立系ソフトベンダー(ISV)にとって常識ともいえる方向に反旗を翻すベンダーが存在する。美濃和男が率いるメール配信システム大手のエイジアだ。(取材・文/谷畑良胤)
1995年設立のISV、エイジア。創業社長の後を受け、2005年のマザーズ上場時に入社した美濃が社長に就任したのは、09年4月のことだ。旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)や証券会社の勤務経験をもつ美濃が、エイジアの社長として社員に掲げたビジョンは、「10年以内に年商100億円」だった。12年3月期の売上高7億円強の同社にすれば、この目標値はとてつもなく高い峰にある数字だ。しかし、美濃は熟慮の末に「生きる道」を探り出し、解を導き出した。
エイジアの製品は、メール配信システム「WEB CAS e-mail」などメールマーケティングシステムが主力。売上高100億円に到達するには、特殊な商材で市場が限定的すぎないか。競合がひしめくメール配信システム市場では、シェア上位の座をいつ奪われないとも限らない。
多くのISVは、次世代に備えて次なる領域を模索する。だが、美濃は違う。「インターネットを活用しながら、顧客の売上拡大に寄与するソフト・サービスを提供し続ける」ことで、長く業界で生き残れると考えた。商材が特殊で限定的という事情を決して悲観していない。「WEB CAS」シリーズは、主にEC(電子商取引)事業者の大手に納入。「ECサイトが滅びることはない。海外の新興市場を含めて考えれば、むしろ増え続ける」(美濃)。
それでも、外資系を含め競合が登場しないとも限らない。「WEB CAS」のすぐれた機能が追撃される可能性も否定できない。エイジアは、パッケージだけでなく、ASP/SaaS型での提供サービスももっている。価格競争には、勝ち残ることができそうだが……。
エイジアには秘策がある。「秘策」というと高等な戦略を想像するが、実をいえば同社の戦略は、他の多くのISVの逆を追求しているにすぎない。「パッケージにカスタマイズを加えることで、より使いやすい製品にする」(美濃)というやり方だ。どんな案件でも、ほぼすべてでカスタマイズを施す。過当競争が激しいECサイトにとっては、「競争力の源泉」と呼べる競合他社と異なる機能がほしい。「スクラッチ(手組み)したら、ユーザー企業の満足度は98~99%に跳ね上がった」と美濃は言う。カスタマイズを求める層の市場は「膨大にある」との見立てだ。
冒頭述べた通り、カスタマイズをすれば、追加開発やリプレースの際などに煩雑な作業が発生するし、保守・運用も難しくなる。だが、エイジアは、あえてここにこだわる。「カスタマイズの部分でバグが発生することが、経営の最大のリスク」と、美濃も認める。だからこそ、「高度人材育成を重視している」と美濃が言うように、同社は技術力の研磨を徹底している。これこそが、勝つための方程式だ。年商100億円を獲得するために、この路線を選択したわけだ。[敬称略]

メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)の「海外展開委員会」でタイを訪れ、MIJSの理事長として、タイのソフト団体とのMOU(覚書)調印式に臨んだ(左から二人目がエイジアの美濃和男社長)