「5年後に私の会社は消滅しています」。中国地方で年末に開催されたIT業界内の懇親会の席で、地域の某ITベンダーの社長が窮状を訴えた。この会社は、減り続ける受託ソフトウェア開発に見切りをつけ、自社開発した情報系のパッケージソフトを主力に戦ってきた。だが、景気の後退が体力を消耗させた。「競合ひしめく情報系ではなく、特化分野に参入したい。だが、資金に余力がない」。酒で赤らんだ顔には、諦観がにじみ出ていた。(取材・文/谷畑良胤)
帝国データバンクによると、2012年のシステム・ソフト開発業者の倒産件数は単年で221件と、2000年の調査開始以来、最悪になった。2000年から2012年までの累計では1697件。そのなかで、設立10年未満が45.6%を占めた。中小企業の資金繰りを改善するはずの中小企業金融円滑法の下で、倒産が増加。2000年前後のITバブル期に創業した多くのシステム・ソフト会社は資金調達がうまくいかず、倒産は高水準で推移した。
冒頭のITベンダーも、この一歩手前でようやく生き残っているに過ぎない。「受託ソフト開発は、すぐれたビジネスモデルだった」。受託ソフト開発で栄華を極めたITベンダー幹部の多くは、口を揃えて昔を懐かしむ。元請けベンダーから仕事を請けて、孫請けや海外のオフショアを含め、人海戦術のウォーターフォール型で一気に開発するやり方は、ITベンダーやそこに働く開発者の懐を暖めた。
だが、安価なパッケージソフトやクラウドコンピューティングの登場で、業界は一変。情報サービス産業協会(JISA)幹部ですら、「受託ソフト案件は、10年後に半減する」と認める。受託ソフト開発は、1案件額が大きく、獲得が難しくなっている。そんな事情があって、粗利率が高く、販売力さえあれば売れるし、保守費などストックも得られる汎用的なパッケージソフトの開発に転じるベンダーが増えた。それでも、時代は待ってくれない。パッケージソフト業界も、クラウドや外資系ベンダーの安価製品・サービスの前に、価格競争力や技術力などでトップベンダーですら生き残りには暗雲が立ちこめる。
インフォテリア社長の平野洋一郎は言う。パッケージソフトは、アイデアを生んで、製品にして販売するまでに1年程度を要するが、「その間に競合が登場し、発売の頃にはほとんど価値がなくなっている」。スピードや資金力がなければ、成り立たない世界になっているのだ。

IT業界関連のイベントは年々集客力を失っている(写真と本文は関係ありません)
数年前、米国でGoogleとSaaS型でERP(統合基幹業務システム)などのサービスを提供するネットスイートが提携した際、こんな噂が流れた。「企業向けソフトはタダになる」。SaaS(クラウド)サービスはイニシャル(初期投資)が不要で、月額の従量課金制で提供される。そこにGoogleが入り込むことで、同社のアドワーズやアドセンスなどの広告モデルで無料で使えるビジネスモデルが成り立つ。ただしいまのところ両社にその動きはない。現状では「Google Apps」とネットスイートのクラウドサービスが連携するにとどまっているが、この先はわからない。
この連載では、国内独立系ソフトベンダー(ISV)が将来出くわす可能性のある「危機」と、生き残り策を示してきた。資金力や技術力の課題、参入障壁の問題や競合対策などの方向性を有力ISVから聞いた。総じていえるのは、クラウドに向かう流れは無視できず、「商流」を含めたIT業界で起きているパラダイムシフトから目を背けてはならないということだ。引き続き「ISV編」で、より本質へとアプローチしていく。[敬称略]