清水明日香さんは、大手システムインテグレータ(SIer)のインテックで、半導体メーカー向けの営業を担当している。もともと大阪支社でシステムエンジニア(SE)を務めたが、2005年に営業に異動となり、同時期に東京本社に移った。営業への転向を知らされ、とまどった清水さん。現在は、SE時代に培った技術ノウハウを活用しながら、提案活動を行っている。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/大星直輝)
[語る人]
●profile..........清水 明日香(しみず あすか)
大学卒業後、2002年4月、インテックに入社。大阪のシステム開発部門に配属され、大手電機メーカーの自社持ち帰り開発を担当。05年に営業職へ転向し、合わせて首都圏に転勤。同じ客先の営業担当となる。現在は、既存顧客への対応と並行して、電機・半導体メーカーを中心として製造業の新規開拓に携わっている。
●会社概要.......... ITホールディングスグループの大手システムインテグレータ。1964年設立。富山市に本社を構えるほか、東京・江東区に「東京本社」を置く。中国でも事業展開している。従業員数は3773人。
●所属..........首都圏本部 製造事業部
電機営業部
主任
●営業実績.......... 10年以上にわたってインテックの重要クライアントである大手半導体メーカーを担当し、開発案件を数多く獲得している。
●仕事.......... インテックは、大口の顧客と数十年にわたって長くつき合える関係を築くことを方針としている。清水さんは2002年に入社してから、ずっと同じ半導体メーカーを担当している。現在は、新規顧客の開拓にも注力し、首都圏だけでなく、出張で全国を回っている。会社にいる時間は週一日だけで、その時間を提案資料づくりなど営業活動の準備に使っている。
SE出身のばりばり女性営業
「うちのチームで営業の仕事をやってみないか」──。SEとして働いていた部署の営業担当にそう声をかけられた。当時、私は大阪で大手の半導体メーカーに向けたシステム開発を担当していた。入社2年目に社外デビューし、営業に同行してお客様を訪問しながら、大型プロジェクトに携わった。恵まれた環境のなかで技術者としての道を歩むはずだったところへの突然の勧め。「なんで私が営業なの?」と、ショックを受けた。寝耳に水というのが当時の心境だった。
「ちょっと考えさせてください」と答えるのがやっと。すぐには異動を承諾しなかった。営業の仕事というのはどんなものなのかが全然わからず、営業担当になった自分のイメージも湧いてこなかったのだ。しかし、新しい世界が広がるせっかくのチャンスでもあると思って、女性営業のベテランが書いた入門書を読んだり、あらためて自己分析をしてみようと思った。
実は、私は細かい作業があまり得意ではない。SEの仕事をしながら、そのことを肌で感じてきた。それに、何より人と話すことが好きだ。SE時代にも、あらゆる仕事のなかで、とくにお客様を訪問することが好きだった。最終的には、私をよく知っている友達や同僚から「開発より、むしろ営業のほうが向いているよ」といわれ、その言葉に背中を押されて、営業担当になることを決めた。
営業チームへの異動とともに、勤務地が東京に変わった。お客様は同じだが、今度は営業担当として訪れることになった。挨拶訪問のときに新しい名刺を渡したら、「えっ!? 営業になったの」と、訪問先の方にかなり驚かれた。私は営業として一日も早く会社の戦力になることを目指して、そもそもインテックはどのような商品を展開しているかを一から勉強し直した。SEだった時にはまったく意識していなかったセキュリティ製品も扱っていることにびっくりしながら、営業に必要な知識を吸収した。
異動になってからおよそ8年が経つ。現在は、後輩の面倒もみるような立場になっていて、これまでの半導体メーカーのお客様に加え、新規顧客の開拓にも取り組んでいる。
営業になってよかったかと聞かれると、正直、なかなか答えが出ない。SE時代は期間が短く、苦労という苦労も経験しなかったので、比べる要素があまりないからだ。しかし、胸を張って言えるのは、開発に携わったことが今の営業活動の大きな武器になっているということだ。開発の経験がなければ、情報システムという仕組みについてわからないことが多い。私は常に、SE時代に培った技術ノウハウを生かす提案活動を心がけている。(つづく)