「クラウド・ユーザー・コンピューティング」──。聞き慣れない言葉だが、Salesforce.com基盤を中心に他のクラウドや既存システムを“つなぐ”ビジネスで成長するテラスカイ社長の佐藤秀哉が掲げる“理想型”である。クライアント/サーバー(C/S)型システムのクラウド化を加速させるなかで生まれたキーワードだ。ITシステム部門がつくるシステムだけでなく、個々の利用者が使い勝手に応じて“自作”するという考えだが、佐藤は、これをクラウド市場拡大のキーワードに据える。(取材・文/谷畑良胤)
受託ソフトウェア開発。いわゆる“手づくり”のスクラッチ開発を指す。テラスカイは、スクラッチ開発を「最大のライバル」と捉える。C/S型システムは当面残るにしても、「スクラッチ開発は10年後に半減する」(情報サービス産業協会=JISAの幹部)はずだが、その減速の度合いは緩い。テラスカイ社長の佐藤は、「これらを駆逐できない理由を解析した」といい、クラウド・ユーザー・コンピューティングという概念にたどり着いた。
スマートフォンやタブレット端末を使うビジネスパーソンは、誰しも自分の使いやすいアプリケーションを選び、これを使って業務効率化などに役立てている。クラウド型のストレージ・サービスや名刺管理サービス、スケジュール管理などもそうだろう。「当社が目指す最終形は、これだ」。テラスカイ社長の佐藤は、こう断言する。
時には味方であり、場合によっては敵にもなるサイボウズ。同社が提供する「導入から10分でほしいアプリをカンタン作成できる」を謳い文句にするクラウド型データベースアプリ「kintone」は、クラウド・ユーザー・コンピューティングに近いといえる。サイボウズ社長の青野慶久とテラスカイ社長の佐藤は、切磋琢磨する仲だが、この点では同意しているという。両社とも、米国市場を果敢に攻める。佐藤は言う。「テーブル(データなどの要素を縦横に格子状に配置したもの)さえ用意すれば、国境を越える」。
今は、ITシステム部門がつくったシステムを無理矢理使っているのが現状だ。これが、利用者側(エンドユーザー側)で好き勝手に組み替えられたら──。ITシステム部門が骨格だけをつくって、使い勝手のいい悪いは利用者に任せることになれば、もっと使えるITになる。それを実現するうえで、クラウドは欠かせない。この世界が広がれば、クラウドは急速に普及するし、国産ソフトが世界で通用する可能性がある、というロジックだ。

Salesforce.comやクラウド関連では、講演する機会が増えているテラスカイの佐藤秀哉社長 テラスカイは、Salesforce.comの標準レイアウトでは実現できない自由なレイアウトや入力支援機能を持つ画面をノンコーディングで作成できるツール「SkyVisualEditor」を、2010年10月にリリース。クラウド・ユーザー・コンピューティングの世界の具現化に向けて、動きを早めている。「気づいた瞬間に、別の競合サービスが生まれる」。テラスカイの佐藤は、常にそんな危機感を抱いている。だから、先を見越して策を講じているのだ。
同社は昨年9月、米カリフォルニア州のサンノゼに100%子会社を設立した。主な目的は、クラウドと現システムをつなぐ「SkyOnDemand」の販売で、米国人を含めた数人が同製品の販売に回っている。だが、主な狙いはほかにある。テラスカイの製品は、世界的にみても唯一無二だ。しかし、「危機に晒されるとすれば、米国にやられる場合だろう」。IT先進地での情報収集速度を速め、先んじることを重要視している。今は、Salesforce.comを主体にしているが、次にAmazon基盤上での展開を虎視眈々と狙う。[敬称略]