【バンコク発】国内製造業の多くが国内と中国に次ぐ生産拠点として、タイへの機能拡大に着目している。大量の労働力をあてにした中国への依存度は依然として高い。だが、賃金上昇や日中関係の悪化へのリスクヘッジの目的で、東南アジアに機能を分散する傾向がある。タイに対する関心が高い理由は、親日で賃金が中国に比べて低水準ということだけではない。タイに次ぐエリアとして、カンボジアや民主化したミャンマーなどへ進出する足がかりをタイを拠点にして検討するためだ。東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G、石田壽典社長)は、国内製造業の最適なグローバル拠点を整備する担い手になるために、タイ市場に力を入れている。(取材・文/谷畑良胤)
「A.S.I.A.」の利用企業が拡大
富山県を出身地とする大手ゼネコンの佐藤工業は、日系製造業の生産拠点が急速に整備された1986年にタイ・バンコクへ進出した。タイの現地法人「佐藤工業バンコク」は、以来、日系企業向けにタイの工業団地の工場や倉庫、事務所などの新築・増築・改築を手がけている。主な顧客は、自動車関連企業などだ。
同社はご多分に漏れず2008年のリーマン・ショックで痛手を負い、09年にタイ国内では受注1件の憂き目をみた。その後は、11年に発生したタイ洪水の危機を乗り越え、昨年は過去最高の受注を獲得した。佐藤工業バンコクで総務・経理の責任者を務める三枝邦宏氏は、「タイ洪水の復旧工事もあるが、日系企業の生産拠点が分散した影響を受けている」と、日系企業の生産拠点が急速にタイへ移る動きを実感している。
佐藤工業バンコクは、日本本社の非連結子会社で、独立採算で事業を展開しているので、財務管理を単独で徹底する必要があった。96年には、タイ国内で日系企業向けシステムインテグレーション(SI)最大手のマテリアル・オートメーション・タイランド(MAT、青木正敏代表取締役)の提案で、海外拠点向けERP(統合基幹業務システム)パッケージ「A.S.I.A.(エイジア)」をクライアント・サーバー(C/S)型で導入した。
同社が手がける工場の建設はさまざまで、建設用資材や機器・設備なども多岐にわたる。資材の点数や要求は計り知れず、環境面に対する要求も広範囲に及ぶ。工場の建設には、躯体や屋根、内装、仕上げなどで20社程度の下請け業者を抱えている。三枝氏によれば、「安定経営を実現するには、債権・債務の情報をリアルタイムで追うことが重要だ。資材調達・発注などを含めて、タイで行う建設工事の管理をすべて賄うパッケージは、当時はなかったと聞いている」と、前任者の苦労を偲ぶ。最近では「日系企業の進出が増え、迅速な対応が求められている」(同)と、うれしい悲鳴を上げている。
他のアジア拠点にはクラウドが有効
また、日系企業が他のアジア地域へ進出する動きに応じて、佐藤工業バンコクも同社出資でインドネシアとカンボジアに拠点を構えた。だが、「各拠点にサーバーを置いて、オペレーションするのは困難」(三枝氏)と悩んでいたところ、クラウド版の「A.S.I.A. GP」を勧められ、12年11月にはタイで、同年12月にはインドネシア、13年2月にはカンボジアでそれぞれ導入した。
三枝氏は「サーバーをタイ拠点に置くだけで、他の拠点にインフラが不要になった。日本に移動した時や他国に滞在中でもアクセスできる。また、『A.S.I.A.』は日本の経理の流れを継承して勘定科目、費目、プロジェクト案件の三段階の管理ができるし、多言語だから、タイに常駐するシステム利用者が別拠点のオペレーション担当者に教育することができる」と、アジア拠点で「A.S.I.A.GP」を利用するメリットを語る。
一方、産業機械、車輛、高所作業車などの総合レンタルビジネスを営む静岡県のレントのタイ現地法人、レント・タイランドも、日系企業の進出ブームに伴って、システムの強化が求められていた。同社はバンコク東南に位置するアマタナコンとイースタンシーボードの両工業団地に店舗を配置し、建築や設備メンテナンス向けにレンタルを提供。今年1月、レンタル管理システムと会計システムとの密な連携を図ってビジネス拡大の好機を最大化するため「A.S.I.A.GP」を導入した。
タイ国内には、工業団地に進出する日系企業の動きに応じて、事業拡大に応じシステムを高機能化する流れが急速に進んでいる。

佐藤工業バンコクの総務・経理を担当する三枝邦宏氏