島根県出雲市斐川町にある島根富士通(宇佐美隆一社長)は、プリント基板から装置まで一貫して製造する国内唯一のノートPC生産拠点だ。100%国産のPCという特徴のほかに、ユーザーのニーズに柔軟に対応できるカスタマイズサービスを強みとしている。2014年4月9日にサポートが終了する「Windows XP」からのPCの乗り換え需要が高まっていることを受けて、工場では増産体制を敷いている。13年5月には、これまでの累計生産台数が3000万台に到達した。(取材・文/真鍋武)
カスタマイズが最大の強み
国内PCメーカーの多くが、アジア地域に主要な生産拠点を移しているなか、島根富士通では、日本国内で開発からサポートまでを一貫して行うメイド・イン・ジャパンのノートPCを生産している。低価格であることを強みとする海外製PCと対照的に、故障が少ない高品質とカスタマイズの柔軟性を武器に、ユーザーのニーズに応えている。
生産しているPCは、現在、1~2割が家電量販店などの店頭向け、2~3割が海外市場向け、残りの約5~6割が国内企業向けだ。
「以前は店頭向けのPCが多かったが、価格競争が激しくなっている状況で、およそ2年前に企業向けPCの生産に重点を置くよう舵を切った」(宇佐美社長)。

PCのプリント基板はムダがない2面取りを採用
個別のモデルを同時に生産できる組み立てライン
宇佐美隆一 社長 企業向けPCでは、とくにユーザーの要望に合わせたきめ細かなカスタマイズが好評だ。カスタマイズサービスとして、PC本体へのロゴ印刷やラベル貼付だけでなく、ユーザー企業専用のソフトウェアのインストールやネットワーク設定などの各種セットアップサービスを提供している。宇佐美社長は、「もはやPCという“箱”だけで販売するビジネスは成り立たなくなってきている。カスタマイズは、当社の生き残りをかけた付加価値を提供するための重点戦略だ。実際、お客様からは『柔軟にカスタマイズができることを知っていたら、もっと早く発注していたのに』という声をいただいている」と説明する。
また、PCの組み立てラインでは、一つのベルトコンベア上で複数種のモデルを同時に組み立てることができる体制を敷いている。1ラインあたり約15人の従業員が、手作業で少量・多品種のPCを同時に組み立てていくのだ。作業には高度な技術が必要となるが、宇佐美社長は、「社員の離職率が1%程度と低い。技術とノウハウを蓄積していくことで、実現することができた。中国などの海外生産拠点では、従業員の離職率が高いこともあって、なかなか真似ができない」としている。
例年の3割増しの増産体制
少量・多品種で、ユーザー企業のニーズに合わせてカスタマイズできるという強みに加え、今年は、来年4月9日にサポートが終了する「Windows XP」からのPCの乗り換え需要によって、例年のおよそ3割増のペースで生産している。「いつもは定時の夕方5時半に終業するが、現在は4時間程度の残業をしなければ生産が追いつかない状況」(宇佐美社長)という。予算がない、アプリケーションの改修が間に合わないなどの諸要因によって、サポート終了後にも法人では一定数の「XP」端末が残ることが予測されているので、宇佐美社長は、「来年4月9日以降も増産体制は続く」とみている。

累計生産台数3000万台の記念モデル また、島根富士通では、ノートPCだけでなく、タブレット端末も生産しており、防水仕様の「Windows 8」タブレット「ARROWS Tab」を大手生命保険会社向けに数万台単位で生産するなど、実績を積み重ねている。
島根富士通は、1990年10月に生産を開始して以来、今年5月には累計生産台数が3000万台に達した。9月末には、3000万台の記念モデルとなるPCを制作。1000万台、2000万台などの生産台数の節目には、これまでも記念モデルを製作してきたが、今回のモデルでは、島根富士通が生産したことの証である「出雲モデル」のロゴを前面に押し出した。
実は、初めて「出雲モデル」を打ち出したのは2011年のこと。島根富士通は、出雲縁結び空港と出雲市駅の中間に位置する斐川町に工場があるが、昔は斐川町が出雲市に組み込まれていなかった(簸川郡斐川町)ので、「出雲モデル」とは称していなかった。しかし、斐川町が11年10月に出雲市に編入されたことをきっかけに、「出雲モデル」としてブランド化。宇佐美社長は、「『出雲モデル』の意味は三つある。出雲産のPCであることの証と、従業員に誇りをもってもらうこと、そして県外に対してのアピールだ」と誇らしげに語った。