島根県では、Rubyを軸とするIT産業振興や誘致政策によって、首都圏などの県外から進出するソフト系IT企業が増えている。最近では、島根の地場ベンダーと誘致企業が連携して、新たなRubyビジネスを創出する動きが活発化している。また、県内IT産業の将来を担う人材の育成を強化するため、松江市や情報産業協会は、公教育の場でRubyを学習させる取り組みも進めている。(取材・文/真鍋 武)
成果が出始めた共同研究
島根県では、Rubyを軸としたIT産業振興の成果として、07年~13年までに首都圏など県外から20社のソフト系IT企業の誘致に成功している。最近では、地場のITベンダーと誘致企業が密接に連携して共同研究を進める動きが活発化している。
9月25日には、松江市のワコムアイティ(今岡克己代表取締役)と、東京都三鷹市のコミュニティ・クリエイション(佐藤弘人社長)、徳島県のアイ・ディ・エス(IDS、貴田秀資代表取締役)が、Rubyを開発言語とした統合型プロジェクト・マネジメントシステム「Jewelry Judgment(JJ)」を発表した。3社は、従前から各自でRubyビジネスを展開してきたが、コミュニティ・クリエイションとIDSが松江市内に開発拠点を設けたことをきっかけとして「JJ」を共同開発。10月初旬には、ユーザーが無償で使うことができるように、オープンソースソフトとして公開している。

テクノプロジェクト
吉岡宏社長 「JJ」は、営業情報やプロジェクトの進捗情報を管理するためのウェブシステムで、プロジェクト開始後の各社員の工数や経費を場所を問わず管理することができる。プロジェクト管理システムは価格が数百万円と高価なものが多いが、「JJ」では、ユーザーの導入コストの最小化を実現する。
また、約180人の従業員を抱える島根県最大手のソフト系IT企業、テクノプロジェクト(吉岡宏社長)も、東京都のフォーディーネットワークス(4D Networks)の山本哲男社長が今年2月に松江市に設立した八雲ソフトウェアと共同で、Rubyから高速データベースシステム 「4D DAM」を利用するためのAPIの研究を進めている。
「4D DAM」は、東京証券取引所が採用した実績をもつビッグデータに対応する高速データベースシステムで、必要最小限のフィールドだけを抽出して設計・開発し、システムを止めることなく柔軟にフィールドの追加やテーブル構造の変更を行うことができる。吉岡社長は、「Rubyが『4D DAM』に対応すれば、DB構築の段階からアジャイル方式で開発して、システムの開発コストとメンテナンスコストをさらに削減することができるようになる」と説明する。今年中にAPIを完成させて、来年からは実ビジネスでの活用を進めていく考えだ。
Rubyを公教育の必須科目に

松江市産業観光部
まつえ産業
支援センター
福田一斎副主任 吉岡社長は、島根県情報産業協会の会長として、「産学官がうまく連携しているので、Rubyを軸とする島根県のIT産業の振興は活性化している。最近は、情報産業協会の会員のなかに若い経営者が増えていて、県や市が発案した新しい取り組みに対して、『まずはやってみよう』と積極的な姿勢になっている」と現状を語る。
とくに吉岡社長が注目している新しい取り組みが、公教育の場でRubyを必須科目にして技術者の育成を図ることだ。「首都圏から企業が進出してきているのは、島根県の優秀なRuby技術者を求めているからだ。島根県が魅力的であり続けるためには、継続して人材を供給する仕組みが欠かせない。県や市が、今後も多額の予算をかけて人材育成することは現実的ではない。Rubyを公教育の現場で必須課目にすれば、継続して優秀な技術者を輩出することができる」(吉岡社長)。

9月25日には、地場ベンダーと進出企業が共同開発した「JJ」を発表 義務教育の現場でRubyを必須科目にすることは、ハードルが高いことのようにも思えるが、2012年に新学習指導要領が改訂され、中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修科目となったことで、実現の可能性は高まっている。「プログラミングが必修となったことは、全国ではあまり注目されてはいないが、実はIT業界にとっては大きなチャンス。10年後に県内のソフト産業を担う人材を早いうちから育成することができる。すでに松江市のある中学校では、試験的にRubyの授業を実施している」(松江市産業観光部まつえ産業支援センターの福田一斎副主任)という。島根県情報産業協会では、Ruby教材の提供や、教員に対する教育などを実施する。ソフト系IT産業の活性化に成功している島根県は、すでに将来に向けた“種まき”を始めているのだ。

次回は、データセンターの誘致に積極的な沖縄県のIT産業の動きを紹介する