ビッグデータでどのようなアプリケーションビジネスを生み出すか──。システムインテグレータ(SIer)や独立系ソフトウェアベンダー(ISV)の頭を悩ませている問題である。そんななか、IBMは、自社のビッグデータの先進的な技術や製品を中国でパートナーに全面開放し始めた。ITベンダーとともに、高い需要が見込めるビッグデータビジネスをものにしようと、新たなチャネル戦略を推進している。(『SP/計算機産品与流通』2013年10月14日第19期第16巻より)
翻訳・再編集/『週刊BCN』編集部
中国でもニーズが高いビッグデータ
「ビッグデータ」は、2013年のIT産業を席巻したキーワードになった。それは日本だけでなく中国でも同じで、この流れはしばらく続くだろう。大量のデータを瞬時に収集・分析して、仕事を効率化したり、新ビジネスの創出に生かしたりするシステムは、業種・業態、企業規模を問わず、多くのユーザー企業が長期的に求めるはずだ。中国では、ビッグデータを有効活用するためのアプリケーションソフトがとくにニーズが高い。これは、SIerやISVにとっては大きなビジネスチャンスになる。
中国のITベンダーは、ビッグデータでまったく新しいビジネスを生み出そうとしていて、従来にはない角度から、ビッグデータの統合ソリューションや分析アプリケーションの開発・販売に挑もうとしている。ビッグデータはニーズが高いものの、競合も激しい。そのなかで、中国のITベンダーは、大手のグローバルITベンダーの先進技術を活用して、新たなアプリケーションやソリューションを開発することを望んでいる。大手ITベンダーがもつ技術・ノウハウと自社の製品・サービスを融合し、中国のユーザー企業のニーズに最適化したソリューションをつくることで、競争力を強化したいと考えているのだ。
高まるビッグデータ需要とITベンダーの要望に応えるために、IBMは「ビッグデータアプリケーションパートナー召集令」というITベンダー向けの新プログラムを立ち上げた。IBMがもつビッグデータに関連する先進技術を活用したITプラットフォームや過去のシステム構築実績で得たノウハウをパートナーに開放するというものだ。
これまでにはない新制度
プログラムの注目点は、過去にIBMが手がけたマーケティングに特化した協業制度とは異なり、まったく新しい協業のかたちをつくり出そうとしていることだ。
IBMは、この制度を通じてビッグデータビジネスの強化に踏み切ったSIerやISVに対して、開発・テスト環境の提供から、マーケティングまでをフルサポートする。IBMのアプリケーション開発環境を提供して開発を支援。そのうえで、IBMがもつマーケティングリソースやブランド力によって販売促進も支える。それだけでなく、IBMはこの制度に参加するパートナー同士の連携も促進。パートナー同士の協業を促すことで、パートナーは自社に足りない分野を他のパートナーの力で補うことができ、自社の強みをさらに強くすることに集中することができるわけだ。
提供する四つのコア技術
このプログラムのなかで、IBMはパートナーに四つのコアコンピテンシーテクノロジーを提供しようとしている。それが、(1)Hadoopシステム(2)ストリーム・コンピューティング(3)データウェアハウス(DWH)(4)情報統合・ガバナンスだ。IBMはこの四つをビッグデータソリューションには欠かせない技術とみている。それぞれの特徴をみていく。
IBMが提供する「Hadoopシステム」を代表する製品に「IBM InfoSphere BigInsights」がある。静的データの分析ツールとプラットフォームで構成し、通常のオープンソースソフトウェア(OSS)ツールと比べて、ユーザビリティがすぐれており、マネジメントとセキュリティ機能が豊富だ。
「ストリーム・コンピューティング」では、「IBM InfoSphere Streams」がある。気象情報や通信情報、金融取引といった大量のデータをモーションキャプチャするとともに、瞬時に分析することができる。社会インフラ事業者や金融業向けにビジネスを手がけるSIerとISVにとっては、不可欠なアプリケーションプラットフォームである。
「DWH」では、オンライントランザクションDWH「IBM InfoSphere Warehouse」と「IBM Netezza」。両製品は、中国市場で長年にわたって販売され、実績がある。とくに「IBM Netezza」は、ビッグデータの処理で、DWHが直面する課題を克服している。マルチプロセッシングの能力を十分に発揮することで、異なる形式の大量データを単一のプラットフォームに統合できる点が多くのユーザー企業に受け入れられている。「IBM Cognos」や「IBM SPSS」などのBIツールと連携することで、ユーザーの要望に柔軟に応えることもできる。SIerやISVは、これらのBIツールを活用することによって、サービスやアプリケーションを企画・開発する時間を大幅に短縮することができる。
四つ目の「情報の統合・ガバナンス」では、「IBM InfoSphere Optim」と「IBM InfoSphere Guardium」が代表例だ。「IBM InfoSphere Guardium」は、「IBM DB2」のようなリレーショナルデータベースと、Hadoopに基づく分散型ストレージシステムを統合管理する。IBM以外のデータプラットフォームも管理することができ、ユーザーが運用するシステムを維持したまま、最小コストで最大の効果を得ることができる。
世界初の専門施設を北京に設置
パートナーは、これらのビッグデータ関連で重要な技術を、IBMが北京に世界で初めて設けたビッグデータ専門施設「ビッグデータセンターオブコンピテンシー(Big Data Center of Competency)」で利用することができる。IBMは、ビッグデータの技術開発とユーザーのサポート機能を統合するため、グローバルで最高レベルの人材を「ビッグデータセンターオブコンピテンシー」に呼び集めた。そこには、副社長級の専門技術者から、IT業界で定評がある専門家、またユーザー企業のビッグデータに精通する技術者まで含まれている。
パートナーは、IBMのビッグデータ技術の要素をこの施設で検証することができる。IBMは、ビッグデータにおける先進的な経験を集結させて、パートナーとユーザーが“勝つためのビッグデータソリューション”をつくりやすいように支援するのだ。この施設では、技術提供に加えて、最良の事例の提供や、パートナーのビッグデータソリューションを公開して共同セミナーも開催する。また、中国の全範囲で担当者を派遣するオンサイトサポートも提供する。さらに、SIerやISVの個別の特殊な要望について応えていく。個別のトレーニングプランを提供して、パートナーの専門的な能力をつくり出そうとしている。技術プラットフォームの交流会を毎月提供するなど、手厚く支援する体制を整えている。
今回の新プログラムが、これまでの制度と最も異なる点は、ビッグデータに特化した制度であることだ。ビッグデータビジネスを伸ばすことだけに集中しており、IBMとパートナーが長期間パートナーシップを築くことに専念している。IBMが用意するビッグデータ技術・製品と今回用意した新制度を組み合わせることで、IBMの中国でのビッグデータビジネスはさらに加速することだろう。
『週刊BCN』は、季刊発行(3月、6月、9月、12月)する中国特集号で、中国ITベンダーの動向や欧米系ITベンダーの中国でのパートナービジネス戦略情報を発信しています。そのなかで、BCNの中国子会社・比世聞(上海)信息諮詢有限公司は、中国IT業界のパートナービジネスの領域でメディア・コンサルティングサービスを展開するSPと協業し、情報収集・発信体制を強化。SPのコンテンツの一部を活用しています。本記事は、SPが発行する中国IT専門雑誌「計算機産品与流通」(「コンピュータ製品と流通」の意味)で掲載された記事を、BCNが翻訳・再編集したものです。