中国のビッグデータ市場が、2016年までに100億元(約1500億円)の規模に拡大する。中国の有力調査会社であるCCID Consultingへの取材で明らかになった。同時期に765億円(IDC Japan調べ)に達すると予測されている国内ビッグデータ市場の2倍の大きさだ。都市化が進んでいる中国では、各市政府が市民向けサービスを強化して大量データの処理に直面する状況にあって、とくに公共セクターでビッグデータ製品の需要が旺盛だ。大量データ処理に適した「PureData System」を展開するIBM中国は「四半期ごとに50件もの契約を結んでいる」(公共セクターの范宇総経理)と、一歩先んじて市場開拓を進めている。中国でのITサービス展開に取り組んでいる日系ベンダーも、その動きをさらに加速することが求められる。(ゼンフ ミシャ)

IBM中国
公共セクター
范宇総経理 ビッグデータは、中国語で「大数据」という。CCID Consultingによると、ビッグデータ市場は2014年を境に、本格的な成長が始まる。12年現在の4.5億元から14年までに19.9億元に上昇し、16年には101億元に達するというように、速いスピードでの拡大が予測されている(図を参照)。
中国だけでなく、日本でもビッグデータ市場の成長率は高い。しかし、IDC Japanの調査によれば、売上規模は中国のおよそ半分のレベルにとどまることになる。その理由は、中国では企業に限らず、市政府などの自治体も積極的に大量データ処理ができるITツールに投資していることにある。
3月上旬に北京で開催された全国人民代表大会(全人代)で、政府は農村部の都市化に力を注ぐ方針を明確にした。中国で、向こう15~20年の間に約3500万人が新たに都市に住むことが見込まれるなか、各都市は、医療や教育、社会保障など、各分野の市民向けサービスの強化が喫緊の課題となっている。
成長が著しい江蘇省南京市は市民向けサービスの強化に備え、市政府の現在の14部門を統合することを決定。一つの部屋で、一つのITプラットフォームを使い、市を統合的に管理することができる仕組みづくりを推進している。南京をはじめ、中央政府の方針を受け、各地の都市がIT投資を拡張しているところだ。
中国でビッグデータ関連の提案活動を進めているベンダーは、垂直統合型システムを展開するIBMやオラクル、データ分析用のソフトウェアを提供するSAPやEMCなど、大手外資系が中心となっている。彼らは、現地ベンダーにはまだないビッグデータ処理の先進技術をもっていることを強みとして、地場の有力IT販社とエコシステムを築くことによって、本来、外資系ベンダーにとって事業展開がしにくいとされる公共セクターの開拓を推進している。
IBM中国は、昨年の10月、垂直統合型システム「PureSystems」の一製品として展開するデータベースプラットフォーム「PureData System」を投入した。ハイタッチ営業によって案件を獲得し、中国のローカルキングを通じて販売・実装を行うという、現地ベンダーの収益確保を重視するモデルを採用している。
IBM中国がとくに力を入れているのは、各市政府に対して、自社の存在感を高めることだ。現在、全国69か所にオフィスを展開しており、今後もその数を増やす。各地の都市に社員を派遣し、市政府と密に連携するかたちで案件の獲得を狙っていく。IBM中国で公共セクターを統括する范宇総経理は、「オラクルやEMCなど競合他社は、製品カットで勝負しようとしている。それに対して当社は、政府関係者の話を綿密に聞き出して、その都市に最適なソリューションを提案することで差異化を図っている」と述べる。
范総経理によれば、中国では公共セクターでの需要にけん引されて、「PureData System」の販売が活発だという。「公共セクターで四半期ごとに50件の契約を交わしている。なかには、数台を提供する大口案件も含まれる」──。范総経理は、「PureSystems」の販売で苦戦している日本IBMがうらやむほどの、中国での好調ぶりを語った。
表層深層
朝から深いスモッグに包まれ、太陽が見えない北京の街。中国の環境汚染問題を代表する言葉として、PM2.5(微小粒子状物質)が話題を集めるようになっている。最近、PM2.5は九州でも観測され、中国の環境汚染が日本に影響を与えつつある。中国政府は対策を急いでおり、その一つとして、ITの活用に取り組もうとしている。
中国の環境・社会問題、それらを解決するための政府のIT投資意欲。日系を含めたITベンダーにとっての、新たな市場が立ち上がっている。NTTデータや野村総合研究所(NRI)など大手システムインテグレータをはじめ、日本ベンダーのなかにも、ビッグデータ処理を強みとするプレーヤーが存在する。彼らに、市場開拓に向けて迅速に動いてもらいたいと願う。
カギを握るのは、製品力はもちろんだが、その製品力をどのように市政府に訴求し、市政府の要望をいかにソリューションに反映するか、だ。IBM中国のオフィス展開のように、物理的に市政府との距離を縮めることが重要となっている。また、各地でどのIT販社が強いかを分析し、その会社と提携を結ぶことも欠かせない。
中国の公共セクターは、決してハードルの低い市場ではない。しかし、ビッグデータ処理の需要にけん引される、挑戦すべき有望マーケットだ。中国側の利益を十分に考慮するエコシステムを築けば、日系ベンダーにも市場を開拓するチャンスはあるはずだ。