日本の情報サービス業は、海外ビジネスを「成長の柱」と位置づけて推進している。しかし、これは同時に海外でのさまざまなリスクの影響が増大することを意味する。日本の情報サービス業がドメスティック市場にとどまる時代は終わりを告げ、外交関係を含む海外リスクをいかに回避し、影響を最小限にとどめながら、海外ビジネスをどのように伸ばしていくかのバランス感覚が不可欠な時代へと変わった。外交評論の第一人者であり、NTTデータのアドバイザリーボードに社外有識者として参加している岡本行夫氏に話をうかがった。(聞き手/安藤章司 写真/長谷川博一)
【プロフィール】岡本 行夫(おかもと ゆきお) 氏
外交評論家
マサチューセッツ工科大学(MIT)
国際研究センター シニアフェロー
1945年、神奈川県生まれ。68年、一橋大学経済学部卒業。同年、外務省入省。91年退官。同年、岡本アソシエイツ設立、代表取締役就任(現任)。96~98年の橋本内閣で総理大臣補佐官(沖縄担当)。01年9月から小泉内閣で内閣官房参与。03年4月~04年3月まで総理大臣補佐官(イラク問題担当)。国際問題の専門家として、政府関係機関や企業への助言、執筆など幅広く活躍。12年7月からNTTデータのアドバイザリーボードに社外有識者として参加している。
「逆櫓」で身を守る手段を
──国際問題に造詣の深い岡本先生に、日本の情報サービス業界と大きな関わりをもつアジア成長市場の現状と今後の変化の方向についてヒントをいただきたいと思います。 岡本 世界のGDPに占める日本の比率は1994年がピークで、約18%でした。その後、世界経済の成長もあって、直近は7%弱と低い比率になっています。恐らく、そう遠くない将来には数%程度になるでしょう。私はGDPがもたらすさまざまな指標が、その国や地域の購買力と大きな関連があると捉えています。つまり、狙うべき市場を、将来は数%を占めるに過ぎない国内だけに限るのか、90%以上を占める海外にするのかという話です。
──現状の主要SIerの海外進出先の多くは中国/ASEAN地域ですが、そのなかで中国とは緊張関係が続いています。 岡本 中国の「1人あたりGDP」から類推する購買力は、日本の1970年代中盤くらいまで高まってきています。人口比から単純に考えれば、70年代の日本市場が、中国にはおよそ11個ある勘定です。親日度から考えれば、ASEANのほうが商売がやりやすいでしょうが、巨大な中国市場を手放せるものではありません。
いちばん重要なことは、進出した地域に必要とされ、従業員に尊敬される企業になることです。なくてはならない商品やサービスを提供することで、何かあっても進出先の市や郷、鎮の地域ぐるみ、従業員ぐるみで守ってくれるはずです。そしてまた、中国に進出するにあたって大切なことは、「逆櫓(さかろ)をつけろ」ということです。船は基本的には前にしか進みませんが、後退もできるよう逆櫓を備え、いざというときに身を守る手段をあらかじめ講じておくべきです。これは海外ビジネス全般にいえることですが、とくに中国では大切なポイントとなります。
アジアのGDPは一段と拡大する
──日中の外交関係は今後、どう進展するとみておられますか。 岡本 中国の政権は、とてもシステマチックで、10年ごとに政権が交代します。次は2022年になることが決まっていますが、しかし実際は、その5年前から下部組織の世代交代が行われます。いわゆる「第6世代」と呼ばれる指導者たちで、彼らが教育を受けた時期は、中国の大学が比較的自由で、しかも日中蜜月時代と重なることから、感情的には変わり始める可能性があります。
しかし、東シナ海や南シナ海でみられるような中国の膨張主義が進むとすれば、米国との間で緊張関係が高まるのは避けられない。これは、米国の同盟国である日本との緊張関係にも直結します。東アジアの括りでみれば、韓国が従来の「日米韓」のパートナーシップではなく、日本を外して「米中韓」のパートナーシップを重視する動きに出ています。近年の中国と韓国が足並みを揃えて、主に米国で対日ネガティブキャンペーンを展開する動きは、こうしたパートナーシップの捉え方の変化が背景にあります。
──あまり楽観できない状況が続きそうですね。先ほど「逆櫓」を例に挙げられましたが、どのあたりを観察していれば、大きな流れを見誤らずに済むでしょうか。 岡本 マクロの観点からみれば、日本と中国・韓国との二国間での話し合いで解決するのは難しいので、日本は世界世論を味方につけて、世界のなかの枠組みで対応していくしかありません。そのグローバルの世論を味方につける主戦場が米国であることは明らかで、だからこそ中国・韓国は先手を打って日本に対するネガティブキャンペーンを米国で展開しているわけです。日本の情報サービス業にとって、もう少しミクロな戦術面の観点では、自動車や電機など大手の協力会社というポジションで、歩調を合わせながら海外へ進出することでリスクを減らすことができます。
また、例えばバングラデシュは2050年には2億5000万人規模になりますし、インドネシアはおよそ3億人、フィリピンも2020年には1億7000万人に増えると予測されています。この先、一段と拡大する中国以外のアジア市場で、いかに早くポールポジジョンを得て、地域的なリスク分散を進めていくかが重要です。
──有意義なヒントをいただき、ありがとうございました。