大手鉄鋼メーカーであるJFEスチールは、2013年4月、タイに新設した製造拠点「JFEスチールガルバナイジング」の本格操業を開始した。JFEスチールガルバナイジングは、海外拠点としては初の100%子会社。海外拠点の基幹システム構築も、初めて本格的に自社で手がけることになった。言語や現地の制度対応と、長年蓄積してきた製造ノウハウの反映という二律背反に近いニーズを満たす最適解が、ERPパッケージと既存基幹システムの融合だった。
【今回の事例内容】
<導入機関> JFEスチールグローバルで業界を代表する大手鉄鋼メーカー。従業員数は連結で4万2519人(2013年3月末時点)
<決断した人> JFEスチール IT改革推進部 主任部員 海外プロジェクトグループ リーダー 西村誠司氏2003年、川崎製鉄とNKKの統合によるJFEスチール設立時、基幹システム統合プロジェクトに参画した。2006年のIT改革推進部発足に伴い、同部に所属
<課題>海外拠点でスピーディかつ低コストで基幹システムを構築したいが、独自の製造ノウハウも反映させたい
<対策>従来基幹システムとスムーズに連携できるERPを導入
<効果>1年という短期間でシステム構築を完了。本格操業後もトラブルなし
<今回の事例から学ぶポイント>ユーザーとして譲れないポイントを明らかにすれば、既存のスクラッチシステムとパッケージを融合した最適なシステムが明確になる
従来システムはフルスクラッチ
日本のものづくりを代表する産業分野である製鉄業。大手鉄鋼メーカーのJFEスチールは、国内の2製鉄所・1製造所を製造拠点として、高品質な製品を世界に送り込んでいる。
しかし近年、鉄鋼を取り巻く事業環境が変化してきた。同社の最重要需要分野の一つである自動車用薄板鋼板のエンドユーザーである自動車関連メーカーが、海外に生産拠点を移しているのだ。用途ごとのオーダーメードや厳しい品質要求などは従来のままで、デリバリ対応の高度化も求められるようになったことから、JFEスチールも、すべての製造プロセスを日本で完結させてから輸送するのではユーザーの要求に応えられなくなった。
そこで、自動車関連メーカーが多く拠点を構えるタイに、最終工程であるメッキ加工を行う製造拠点を設けて、そこからデリバリすることにした。
JFEスチールがそのためにタイで立ち上げた「JFEスチールガルバナイジング」は、海外拠点としては初の100%子会社。同社は、海外拠点の基幹システムの構築も、初めて自社で手がけることになった。
従来、JFEスチールの基幹システムはフルスクラッチで構築しており、そこに固有のノウハウを蓄積してきた経緯がある。社内のシステム構築とIT活用戦略をリードするIT改革推進部の主任部員で、海外プロジェクトグループリーダーの西村誠司氏は、「最初に検討のポイントとなったのは、従来のようにスクラッチでシステム構築するか、ERPパッケージを導入するかだった」という。これについては、比較的早く結論が出た。海外拠点のITシステムには、各国の制度対応や外国語対応が求められることから、ERPパッケージの導入は不可欠と判断したのだ。
メーカーの強みを反映させる
ただ、ERPパッケージだけではニーズをカバーしきれない。とくに、顧客の要求をもとに、製品の最適な仕様を決める「仕様管理」システムは、JFEスチールのノウハウの固まりだ。ERPパッケージのカスタマイズだけでこうした機能をカバーするのは無理だった。そこで同社が出した結論は、「経理・購買、販売・需給管理などはERPをベースにし、仕様管理はJFEスチールの既存基幹システムをモジュール的に呼び出して、ERPに連携させて使う」(西村氏)というもの。議論のポイントは、いかに既存の基幹システムとスムーズに連携できるERPパッケージを選定するかに移った。
海外拠点での導入という観点から、大手外資系ベンダーのERP製品をいくつか俎上に上げて検討した結果、最終的に選んだのはマイクロソフトの「Dynamics AX」だった。西村氏は、「アドオン・カスタマイズのしやすさや、当社の既存システムとの連携の容易さが他製品に比べてすぐれていたことが決め手になった。導入・運用コストも、タイの拠点の規模と見合っていた」と振り返る。
人事給与システムはローカルパッケージを採用し、操業管理システムは個別に構築した。また、「Dynamics AX」だけでカバーしきれなかった需給管理や原価計算には、システム構築を担当したJFEグループのシステム会社であるJFEシステムズの製品などを導入した。
システムは事業を支えるツール
システム構築は、ラインの本格操業のおよそ2年前にあたる2011年夏に開始して、ほぼ1年で完了した。本格操業後も、重大トラブルはなく、安定した運用が続いている。IT改革推進部主任部員の長岡洋平氏は、「システムは、それ自体が目的ではなく、ビジネスを支えるツールであり、業務で有効に使えてこそ価値がある。その意味で、ERPをベースにしながら独自のノウハウも反映させて基幹システムをスピーディに構築できた今回の事例は、大きな意義があった」と自己採点する。JFEスチールは、今後、海外拠点の拡大を予定しており、今回のシステム構築ノウハウを横展開したいと考えている。
さらに、システム構築を担当したJFEシステムズにとっても、この事例は大きな財産を残した。JFEシステムズ東京事業所販生流システム開発部の渡邉崇氏は、「JFEシステムズとしてDynamicsの納入経験はすでにあった。その担当チームとJFEスチールの基幹システムを担当していたチームが、今回の案件を通して両者のノウハウを融合させた結果、製鉄業の業務とERPパッケージの双方に精通した開発要員を育てることができた」と話し、JFEグループ以外の案件の獲得にも意欲を燃やしている。(本多和幸)