バートンジャパン(クレイグ・アラン・スミス代表)は、経費の管理に悩んでいた。紙の伝票に経費を記入する方式をとっていて、経理担当者が大量の伝票処理に追われていたからだ。人手による管理では、記入ミスや伝票の紛失リスクもあった。そこで、情報システム部門の五十嵐善之ITマネージャーは、クラウド型の経費管理サービスの導入を検討。しかし、CFO(最高財務責任者)に納得してもらうためには、コストメリットを訴求するだけではすまなかった。
【今回の事例内容】
<導入企業> バートンジャパンスノーボードなどのアウトドアスポーツ用品や衣類の製造・販売を手がけている。本社は米国のバーモント州で、日本法人では約140人が働いている。商品の大部分は大手スポーツ用品量販店経由で販売している
<決断した人> インフォメーションテクノロジー 五十嵐善之ITマネージャー中途入社した2009年の当初から非効率な経費精算を改善するためにシステム化の検討を開始した。難色を示すCFOに何度も提案して、12年7月に経費管理サービスの導入を果たした
<課題>紙の伝票で経費を精算していたので非効率だった。システムの導入にあたっては、費用対効果を気にするCFOが難色を示した
<対策>クラウドのコストメリットだけでなく、「SAP ERP」との連携や、詳細なレポートを作成できることを訴求した
<効果>承認スピードの迅速化、入力ミスの防止などの効率化に加えて、より詳細な経費レポートを簡単に作成できるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>費用対効果を気にする経営層に対しては、コストメリットだけでなく、複数の付加価値を訴求することが有効
最適なソフトウェアがない
バートンジャパンのセールス・マーケティングチームは、冬季には雪上のスキーイベントに出展するなどで、長期出張することが多い。そのため、担当者が会社に戻ってきたときには、精算しなければならない経費がたまって、伝票の作成だけで1日を費やすこともあった。一方、経理部門では、大量の伝票を1件ずつ処理することに手間をとられて、承認するまでの時間がかかるうえに、忙しさに紛れて記入ミスしたり、伝票を紛失したりしてしまう恐れもあった。
そこで、経費精算のシステム化を検討。しかし、五十嵐ITマネージャーによると、「私が入社した2009年からソフトウェア導入を検討していたが、最適なソフトがなくて、導入を決断できずにいた」という。その大きな要因は、従来のオンプレミス型のパッケージソフトではコストが割高なうえ、同社にとって使い勝手がよくなかったことにある。ところが、「当社は従業員が約140人しかいないので、CFOはシステムを導入した場合の費用対効果を気にして、導入を認めてくれなかった」(五十嵐ITマネージャー)。ほかにもネックがあった。「当社は外資系の企業なので、組織変更が多い。従来のオンプレミス型のシステムだと、組織変更のたびにシステムを改修する必要があるが、手間をかける余裕はなかった」と五十嵐ITマネージャー。
納得しないCFO
一方、米国本社では、コンカーが提供するクラウド型経費管理サービス「Concur Ex pense」を導入していた。イニシャルコストが低く、システムを改修する必要がないコンカー製品の導入は、日本でも当然検討されたが、当時はコンカーが日本市場に参入しておらず、サービスも日本語に対応していなかったので断念していた。しかし、2011年にコンカーが日本に進出することを発表した。このことを知ると、五十嵐ITマネージャーはすぐさま動き出した。米国で導入している製品なら、すぐに日本法人でも導入してくれると思ったのだ。
CFOに提案して導入を請うた。しかし、CFOからの応えは「ノー」だった。「CFOは、ITに詳しくない。従来のパッケージがどれほど高価で、クラウドであればいかにコスト安で利用できるかということを理解していなかった。当然、コストメリットを説明したが、CFOは『一枚の伝票あたりにかけられる予算は限られている。経理部門の負担が週に数時間ほど軽減される程度では導入できない』と厳しい反応だった」と五十嵐ITマネージャーは振り返る。
決め手は「SAP ERP」との連携
しかし、五十嵐ITマネージャーはあきらめなかった。CFOが認めるための導入メリットを模索し、次に目をつけたのが基幹システムとして利用していた「SAP ERP」との連携だった。バートンジャパンでは、経費の会計への記録に「SAP ERP」を利用していたが、経理部門は紙の伝票から二度手間をかけて入力する必要があった。さらに、「経理部門は経費に関するレポートを定期的に提出するよう上から要求されていたが、『SAP ERP』の勘定項目では、細かな仕分けができず、いつ、どこで、どれだけの経費を使用したのかを見ることができなかった」(五十嵐ITマネージャー)。結局、経理部門は、紙の伝票に戻って詳細を調べてレポートをつくらなければならなかったのだ。一方、「Concur Expense」では、「いつ、どこで、だれが、どれだけ」といった詳細を入力することができる。「Concur Expense」を「SAP ERP」と連携すれば、経理部門が入力する必要もない。CFOとしても、詳細のレポートを簡単に把握できることになるので、経営戦略を練りやすい。
さらに、バートンジャパンの場合、米本社が「Concur Expense」を利用していることが幸いして、「SAP ERP」と連携するためのインターフェースを再開発する必要がなかった。「費用対効果にこだわるCFOだけに、“費用ゼロ”で連携できることを訴求しない手はなかった」(五十嵐ITマネージャー)。
こうした付加価値を加えて、五十嵐ITマネージャーは再度提案。すると、コストにシビアなCFOも、ようやく認めてくれて、12年7月に導入にこぎつけることができた。(真鍋武)