弥生は、中小企業向けの業務ソフトの販売本数で6割を超えるシェアを獲得している(BCNランキングなどをもとに集計)。販売本数・売上金額ともに、継続して着実な成長をみせているが、マーケティングには課題があると捉えていた。100万を超える膨大なユーザーを抱えており、販売チャネルは家電量販店を中心に、オンラインでの直販、会計事務所やディーラーといったパートナー経由の間接販売など、さまざま。事業を構成する複雑で多様な要素をどう分析し、経営判断につなげるかを模索してきた。
【今回の事例内容】
<導入機関> 弥生中小企業向け業務ソフトで6割以上のシェアを誇る大手ベンダー
<決断した人> マーケティング本部 マーケティング部 経営情報チーム 立堀 隆 シニアマネジャーSE、IT導入のコンサルタントなどを経験した後、弥生に入社。経営情報チーム立ち上げに伴い、現職に就く。データベースまわりの知識も豊富で、BIパッケージの選定を主導した。
<課題>売上情報の集計はしていたが、そのデータを意思決定に役立てるための分析が必要だった
<対策>BIツールのパッケージ製品を導入
<効果>ユーザー側で集めたデータを思い通りに分析し、施策の根拠として使えるようになった。
<今回の事例から学ぶポイント>「事業の成長」というIT導入の本来的な目的を追求すれば、必要な製品は自ずと定まる。
販売データは「集計」どまり
弥生の業務ソフトは、中小企業向けでは圧倒的なブランド力を誇る。ただし、成長を維持し続けるためには、市場のニーズを的確に把握し、真に顧客の役に立つ製品・サービスを追求する必要がある。
その意味で、弥生のマーケティングには課題があると経営層は捉えていた。マーケティング本部マーケティング部経営情報チームシニアマネジャーの立堀隆氏は、「売上高の集計は行っていたが、分析はできていなかった」と振り返る。
従来は、社内に売上データを集計する専任スタッフを1人配置して、自社で把握する売上情報と、量販店やウェブショップ、販売パートナーの販売情報などを、有料データサービスも駆使しながら収集し、最終的にはExcelでまとめていた。これを定型のレポートにして使っていたが、「集計値しか把握できず、売り上げが変動した理由は追うことができなかった。また、例えば製品カットでみていた数字をチャネル別にみたいと思っても、レポートをつくり直すのに時間がかかって、データを柔軟に観察することができなかった。要するに、意思決定に役立つ資料にはなっていなかったのが実際のところ」(立堀氏)という。
転機が訪れたのは一昨年の暮れだった。集計を担当していたスタッフが退社することになり、社内で売上データをもっと詳細に分析してマーケティングに役立てたいという気運も高まってきたのだ。そして、専任部署が立ち上がり、立堀氏がリーダーとして、BIツールの導入を主導することになった。
ニーズに適合したのは1製品だけ
実は、それまでも社内の一部にはBIツールが導入されていた。しかし、「役立つ資料を思いついたら、そのつど要件定義して、情報システム部門に依頼して機能を実装してもらわなければならなかった。マーケティングや営業に必要な情報は日々変わるので、現場のニーズに追いつかず、使われなくなっていた」と立堀氏は苦笑いする。
こうした従来の課題を踏まえ、BIツールの選定で重視したのは、リアルタイムに高速で多様なデータを処理でき、ユーザー側で集計の仕方や分析軸、レポートの体裁などを柔軟に設定できることだった。情報収集の結果、最終的にクリックテックの「QlikView」にたどり着いた。立堀氏は、「価格やサポート体制、教育制度、扱いやすさなども当社のニーズに適合していたし、データ変換ツールなど余計な投資も必要なく、パッケージだけで求める作業を完結できるのも決め手になった。ほかに条件を満たす製品は見当たらず、唯一の選択肢だった」と選定のポイントを説明する。
施策の根拠が明確に
昨年1月に製品の導入を決定し、アグニコンサルティングが導入ベンダーとなって、4月以降、弥生と共同で開発作業を進めた。8月には開発を終了し、年度初めにあたる10月に本格的に運用を開始した。立堀氏は、「アグニコンサルティングと共同開発するなかで、自社で『QlikView』を自由に使いこなすためのノウハウが取得できた。データソースは一つではないので、どんなかたちでデータを保有し、どう組み合わせるかは工夫が求められるが、共同開発した機能のソースコードなども参照しながら、新たな機能も自分たちで開発できるようになった」と、開発プロセスでの手応えを語る。

「QlikView」の画面イメージ 現在、15ライセンスを導入し、経営陣やマネージャークラスの社員など、業績に責任をもつ立場の人が「QlikView」を使っている。「例えば、ユーザー登録時のアンケートによるプロファイル情報と実際の販売情報を参照すると、同じお客様が時間を置いて違うチャネルで製品を購入していることなどもみえてきて、バージョンアップや保守サービスの訴求の仕方など、施策を考える時に前提となる根拠がはっきりしてきた。立場によって分析したいことも違うが、全社共通のデータをもとに、これらのニーズに応えられるようになり、経営戦略や事業戦略の議論もしやすくなった」(立堀氏)といい、効果を実感する声が多数上がっている。各業務の現場からも「QlikView」を使いたいという要望があるので、ライセンスの拡充も検討している。(本多和幸)