業務ソフトの弥生(岡本浩一郎社長)は、クラウドサービス「弥生オンライン」の第一弾として昨年9月に提供を開始した店舗経営者向けの“半自計化”アプリケーション「やよいの店舗経営 オンライン」の直販を開始した。従来は、同社のパートナーである会計事務所(PAP会員)経由に限定して提供していたが、ユーザーが弥生のホームページから直接申し込んでサービスを利用できるようになった。狙いは、なかなか普及が進まない「やよいの店舗経営 オンライン」の販路拡大だけではない。同社の今後のクラウド戦略上、重要な意味をもつ一手だ。
岡本社長は、トップに就任した2008年の当初からSaaSサービスの提供を宣言していた。それがようやく具体的なかたちになったのが、昨年秋のこと。満を持してのサービスインだったが、現在のところ、ユーザー数は目標値にはほど遠い状況だ。当初、「リリース後1年間で3000ユーザーの利用をめざす」としていたが、今年8月現在でユーザー数は100未満。認知度の低さと販売チャネルである会計事務所への浸透率の低さがネックとなっている。弥生パートナーの会計事務所「PAP」は、7月で5000社を超えたが、「やよいの店舗経営 オンライン」に対応したPAP会員は5%程度にとどまっている。
しかし、岡本社長はこうした状況について、「織り込み済み」との姿勢を崩していない。今回、「やよいの店舗経営 オンライン」の直販を開始した背景についても、「多少遅れたが、当初からの計画通り」と、もともと予定されていた施策だったと説明する。

岡本浩一郎 社長 その背景には、三つのファクターがある。まず第一に、同社は現時点で、「やよいの店舗経営 オンライン」を、時間をかけて育てていくべき商材と考えているのだ。ユーザーに経理の知識がなくても、売上日報形式で入力するだけで収支状況を把握することができるのが特徴だが、最大の売りは、そのデータを会計事務所向けのパッケージ「弥生会計AE」に取り込み、ユーザーが会計事務所とデータを共有できること。当初、チャネルをPAPに限定したのも、このアプリケーションはエンドユーザーが会計事務所と連携することで効果を発揮するというのがコンセプトだったからだ。しかし最近、ユーザー数が伸びないばかりでなく、いったん使い始めたユーザーが利用をやめてしまうという事例も発生した。岡本社長は、「お客様のニーズとマッチしているのか、一件一件確認しながらブラッシュアップに取り組んでいる。拡販のペースを上げるという意味ではネックだが、新規事業であるクラウドサービスの第一弾でもあるので、いまの段階で必要な作業と判断した」と話す。
二つめは、現時点でクラウドサービスのユーザーサポートに投入できる人的リソースが未知数であることだ。消費税率の改正とWindows XPのマイグレーション問題がほぼ同時に起こっていることから、同社には、そのためのユーザーサポートに備えなければならないという事情がある。
そして三つめにして最大のファクターが、今年中のサービス開始を予定している第二弾のクラウドサービスを、ユーザー数急拡大のための商材と位置づけていることだ。サービスの具体的な内容は明らかにしてないが、岡本社長は「よりライトなユーザー層に向けた、売り切りに近い手離れのいいアプリケーションで、基本的に直販の商材になる。カスタマーサービスにも、それほどリソースを割く必要はないだろう」と説明する。
岡本社長の構想では、弥生オンラインが収益ベースに乗るのは2015年。クラウドサービス第二弾の発表とともに、「クラウドの拡販に向けて、本気でアクセルを踏む」と言い切る。つまり、今回の「やよいの店舗経営 オンライン」の直販は、そのためのアイドリングともいえるのだ。同社は、現在、開発リソースの3分の1をクラウドの領域に投入しており、来年以降、三の矢、四の矢のアプリケーションも発売し、加速度的にユーザーを増やす意向だ。
会計事務所をチャネルとしたクラウドサービスの提供では、アカウンティング・サース・ジャパンが先行している。これに対して岡本社長は「潜在的なライバルだとは思っているが、エンドユーザー向けアプリケーションの商品力で負けるとは思えない」と強気の姿勢をみせている。(本多和幸)