ユーザー企業で組織する「Beaconユーザ会」(坪井祐司会長=LIXIL上席執行役員企画管理本部長)が主催する国内最大級のイベント「Beaconユーザシンポジウム」が、今年3月6~7日の両日、滋賀県の大津プリンスホテルで開かれた。全国の地域別に設けられた情報システム部門の担当者中心の研究グループが、一年の成果を発表する催しで、今年で31回を数える。イベントの形態は例年通りだが、発表内容を聞くと様相が一変していた。クラウドの利用があたりまえになるなか、全体的には「収益を上げる情報システムを構築する」という意気込みが感じられた。(取材・文/谷畑良胤)

シンポジウムには全国から579人が参加した
(登壇者は、全体会で事業方針を説明したBSPの竹藤浩樹社長)衝撃だったBSPとビーコンITの統合
「Beaconユーザ会」は、ユーザー企業相互の情報交換を目的として1977年に始まった会合だ。システム運用管理システムのビーエスピー(BSP、竹藤浩樹社長)とデータ・システム連携のビーコンインフォメーションテクノロジー(ビーコンIT、新藤匡浩社長)の製品・サービスを使うユーザー企業で構成し、現在、加盟社は270社を超えている。
今回のシンポジウムには、ITベンダーや情報システム子会社などを加えて199社から579人が参加。東日本、中部、西日本、九州の各地区にある36の研究グループ(研究グループの参加人数の合計は331人)の発表やユーザー企業の事例発表などがあって、形態としては例年と変わらない。
ところが、初日の全体会では、BSPとビーコンIT両社の代表者が事業方針を公表するが、このなかでBSPの竹藤社長が、1月24日にビーコンITを子会社化(株主議決権比率53.55%)したことに触れたあたりから、様相が一変する。「両社の経営資源を融合と活用を進め、クラウドやビッグデータ、グローバル市場への対応を急ぐ」と、運用システムを得意とするBSPとデータ活用で市場を拡大してきたビーコンITが結束し、次世代の情報システム構築の支援を約束するとともに、企業の情報システムが大きな転換点にあることを示した。
竹藤社長は全体会のプレゼンテーションでこのようにも語っている。「『ビジネスにITを使う』企業と『ITを使ったビジネス』をするITベンダーの橋渡し役を果たす」。日本企業のIT投資額に占める運用費の割合は6割程度。いわゆる“お守り”が大半だ。この状況を改めて、情報システム部門が経営に直結する「収益を生み出す」戦略的なIT投資を促すうえで、情シス部門がクラウドサービスなどを積極的に利用する素地をつくることを明言した。その一端を担うのがBSPが提供する「Be.Cloudだ」と説明した。
戦略的IT投資は運用効率化から
これに呼応したかのように、研究グループの発表や専門家を招いたセッションなどでは、運用の効率化を進めてコストを削減し、戦略的IT投資で収益を上げる方法を探るという話が相次いだ。
例えば、東日本情報活用研究会の「クラウドとオンプレミスのシステム連携」を研究したグループは、机上論ではクラウド化できないシステムはないとしながらも、実際にはクラウド化できないシステムもあることを示した。このグループは、既存システムをクラウドへの移行に適しているかどうかを判断する「チェックツール」を開発した。
また、同地区の「クラウドデータウェアハウス」の研究として、Amazon Web Services(AWS)のオープンDWH「Amazon Redshift」を用いて、カラオケボックス会社を想定してビッグデータの活用を実験した。Hadoopのようなオンプレミス型DWHは、開発者が不足していることもあって、まずはRedshiftで社内データ解析を試すことができることを証明した。情シス部門が収益貢献する第一歩の研究として、興味深いものがあった。
二日目のマネジメントセッションでは、東京海上日動システムズの小林賢也氏が、運用、開発、業務の各部門のコミュニケーション不足を解消する目的で、「風通しのよい環境にするために、遊びの部分に投資を行って、スポーツ、文化など、部門横断で何かをこなす機会を設けた」と、地道な活動を報告した。さらに、西日本情報活用研究会が開いたパネルディスカッションでは、運用、開発、経営企画の担当者がパネラーになり「ITのあるべき姿」を話し合った。ここでも、各部門にITの価値に対する認識の違いが出た。情報システム管理者を取り巻く組織体制の見直しを急ぐ必要性が指摘された。
最近では、企業の競争力を保つうえで、開発、運用の両チームや業務部門が連携し、ビジネスニーズを素早く反映する「DevOps」の実現を掲げる企業が増えてきた。このシンポジウムを取材した限り、その意識は高まってきてはいるが、道半ばといえそうだ。